ネコナマナ ～マナちゃんのニャオンな日常～

上から目線

人間は、他人が自分よりも優れている。自分にできないことができると思うとつい妬んでしまいがちな生き物だ。

＜上から目線＞などという言葉があるのがその証左だと思われる。なにしろ、耳の痛いことを言われれば、相手が例え見下していなくとも、『見下された』『上から目線で見られた』とか言うのだから。

＜上から目線＞と感じるのは、実は自分自身が自らを相手より下に見ているからではないだろうか。何故ならば、相手が自分より格下だと感じてしまえば、たとえ上から目線でモノを言ってると感じてもそれほど強く不快に感じないことも多いだろうから。

そう。自分が相手よりも格下だと感じているから腹も立つのかもしれない。

玲那自身はそれを悟ってから無闇に自分と他人を比べなくなったので気にならなくなったが、気にする人間は気にすることも知っているので、自らが気付いたことを他の教師に語って聞かせることも殆どしない。

こういうことでも、『偉そうだ』『上から目線だ』『説教臭い』と反発を招くこともあるからである。

とかく人間というのは面倒な生き物である。己をよく知り身の程をわきまえていれば他人と比べて一喜一憂するのがいかにいかに無意味であるか分かると思われるにも拘らず、他人と比べて、相手が優れていると思えば妬み、自分が優れていると思えば相手を見下し、自ら諍いの種を作り出す。

そして、自らが作り出した諍いで精神を疲弊させ、『自分は不幸だ』と愚痴をこぼし、その憂さを晴らす為に他人を見下したり罵ったりするのだろう。

そう。不幸の一部は、他人からもたらされたものではなく、自らがわざわざ作り出しているものなのだ。

それに気付けたのも、玲那にとっては幸いだった。生徒に軽蔑されるようなことを自らしておいてそれが基で生徒から軽蔑され信頼を失っているにも拘らず、

『生徒が言うことを聞いてくれない』

『生徒が自分を尊敬してくれない』

と文句を言うのだから、尊敬もしにくいというものなのかもしれない。少なくとも玲那自身はそんな教師を尊敬などしたこともない。

自分が信頼も尊敬もできない教師に自らなっておいて泣き言を並べるような真似はしたくなかった。

決して自罰的である必要はないとしても、客観的に見て自らに原因があるにも拘らず生徒の所為にして、生徒に罰を与えようとするような教師にだけはなりたくなかった。

だから桃弥とうやに相談したのだ。

「今、学校で、真猫まなさんのお友達になってくれそうな生徒がいらっしゃるんです。遊びに来てもらっても大丈夫でしょうか？」

その申し出に対して、桃弥とうやの方は断る理由もなかったのだった。

「ええ、構いませんよ。真猫まなの為になるんでしたら」