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お前が言うな
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道徳を説くのなら、生徒がそれに反する言動をした時にこそ、<絶好の機会>として活かすべきだと玲那は思っていた。
とは言え、今、自分は真猫の為に吉泉小学校にいるので、他の生徒が好ましくない言動をしていても敢えて積極的には触れずに来た。
自分がそのようにしているのだから、そんな自分が他の教師に、
『見て見ぬふりはダメです!』
と説いても、
『お前が言うな!』
と反発を招くだけなのも知っていた為に、これまで言わずに来たのだ。自分一人が<熱血教師>よろしく正論を吐いても人は動かない。特に、内心では『見て見ぬふりをしている自分』に気付いている者はそれを突き付けられると余計に感情を拗らせて意固地になる事例が多い。
それでは上手くいかないことも、そうやって正義感と熱意を振りかざして『頑張って』、しかし実際には周囲の理解も協力も得られないままに神経をすり減らして精神を病むか、または正論を説くことに疲れ果て周囲に迎合し、何も言わず、何もしないようになっていくかのどちらかの事例を目の当たりにしてきたからこそ知っていた。
『自分の吐く<正論>を他人に理解してもらおうとしては、認めてもらおうとしては駄目だ。人は、基本的に自分だけが可愛い。自分だけを守ろうとする。道徳を説きながらも自己保身が第一に来てしまうものなんだ』
だからこそ彼女は、自分にできることだけを確実にやろうと考えていた。
その機会がこうして巡ってきたのだ。
なのに、学校側は大きくタイミングを失した横槍でせっかくの流れを掻き乱そうとしている。いつものことだった。
『むしろこうして職員会議の議題として出してくれただけマシですか』
「あの椎津琴羽という生徒には他の先生も手を焼いてるんです」
と、玲那が今、琴羽に絡まれていることを知っていた<ベテラン>女性教師がさも『気持ちは分かる』と言いたげに声を掛けてきた。
だがそれに対して愛想笑いを返しながらも、彼女は、
『そう思うのなら今まで何もしなかったのは何故ですか?』
と思ってしまう。こうやって職員会議の場で議題として持ち出され、『分かる分かる』という空気感が生まれてからそれを言うのは、中学生の頃の自分が見ればそれこそその場で唾棄していたかもしれない。
そして、もしここで自分がそういう態度を少しでも表に出せば、今度は、
『自分だけが分かってる、悟ってる、高みにいると思って他人を見下してる。自分だけが偉くて聡くて優れてて、他人はみな雑魚だと見下してる』
的なことを言われるのも知っていたのだった。
とは言え、今、自分は真猫の為に吉泉小学校にいるので、他の生徒が好ましくない言動をしていても敢えて積極的には触れずに来た。
自分がそのようにしているのだから、そんな自分が他の教師に、
『見て見ぬふりはダメです!』
と説いても、
『お前が言うな!』
と反発を招くだけなのも知っていた為に、これまで言わずに来たのだ。自分一人が<熱血教師>よろしく正論を吐いても人は動かない。特に、内心では『見て見ぬふりをしている自分』に気付いている者はそれを突き付けられると余計に感情を拗らせて意固地になる事例が多い。
それでは上手くいかないことも、そうやって正義感と熱意を振りかざして『頑張って』、しかし実際には周囲の理解も協力も得られないままに神経をすり減らして精神を病むか、または正論を説くことに疲れ果て周囲に迎合し、何も言わず、何もしないようになっていくかのどちらかの事例を目の当たりにしてきたからこそ知っていた。
『自分の吐く<正論>を他人に理解してもらおうとしては、認めてもらおうとしては駄目だ。人は、基本的に自分だけが可愛い。自分だけを守ろうとする。道徳を説きながらも自己保身が第一に来てしまうものなんだ』
だからこそ彼女は、自分にできることだけを確実にやろうと考えていた。
その機会がこうして巡ってきたのだ。
なのに、学校側は大きくタイミングを失した横槍でせっかくの流れを掻き乱そうとしている。いつものことだった。
『むしろこうして職員会議の議題として出してくれただけマシですか』
「あの椎津琴羽という生徒には他の先生も手を焼いてるんです」
と、玲那が今、琴羽に絡まれていることを知っていた<ベテラン>女性教師がさも『気持ちは分かる』と言いたげに声を掛けてきた。
だがそれに対して愛想笑いを返しながらも、彼女は、
『そう思うのなら今まで何もしなかったのは何故ですか?』
と思ってしまう。こうやって職員会議の場で議題として持ち出され、『分かる分かる』という空気感が生まれてからそれを言うのは、中学生の頃の自分が見ればそれこそその場で唾棄していたかもしれない。
そして、もしここで自分がそういう態度を少しでも表に出せば、今度は、
『自分だけが分かってる、悟ってる、高みにいると思って他人を見下してる。自分だけが偉くて聡くて優れてて、他人はみな雑魚だと見下してる』
的なことを言われるのも知っていたのだった。
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