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快適な職場

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『どんなことでも人間ってだいたい慣れるものなのね…』

笹蒲池家のハウスキーパーのリーダーである椎津琴乃しいづことのは、そんなことを考えていた。その彼女の前には、いつものように全裸で家の中をウロウロと歩き回る真猫まなの姿が。

この家に来た最初期は、いい職場が見付かって良かったと思っていた。家は無暗に広くてすることは多かったが、とにかくその家の主人は余計な口出しを一切してこない人物で、他人に偉そうにされたりあれこれ拘わられるとカッとなってしまう性質の自分にはすごくありがたかった。

自分と一緒に笹蒲池家に派遣されている部下のハウスキーパー達も自分とよく似たタイプであることは何となく察していた。だからお互いに余計な詮索をしないように、何か話をするとしても仕事に関わること以外は口にしないように努めていた。

それで上手くいっていたのだ。

なのに、そこに突然現れた少女。主人の笹蒲池桃弥ささかまちとうやの親戚だというその少女は、一見しただけで普通じゃないのが分かる、特殊な事情を抱えた少女だった。

『面倒臭いことになった……』

初めは正直、そんな風に思った。今の仕事に加えまともじゃない子供の世話までさせられることになると思ってげんなりした。それでもなるべくそれは表に出さないように気を付ける。それでこの家の主人から不評を買って、家政婦の派遣事務所の方にクレームを入れられては敵わないからだ。多少の面倒が増えたとしても、少なくとも、『客だから』と尊大で横柄な態度をしてくるような人間のいる家よりはずっとマシだと思ったからである。

しかし、そんな心配は、拍子抜けするほどに杞憂に終わった。

主人の笹蒲池桃弥ささかまちとうやは、引き取った真猫まなという名の少女の世話を彼女らに押し付けるようなことをしなかったのだ。

もちろん、少女の分の食事の用意や洗濯物については増えてしまったが、それ以外は、少女はハウスキーパーらを遠巻きに見詰めたりはするものの構ってもらおうとしたりすることもなく、無暗に手間を取らせることもなかった。

ただ、風呂が好きらしくしょっちゅう風呂に入っては体を拭かずに上がってくることで床がびしょ濡れになることと、服を着るのが嫌いらしく、家にいる間は常に裸でいることには困らされたが。

とは言え、主人の笹蒲池桃弥ささかまちとうや自身がそれを気にしていないからかとやかくいうことをしないので、いつの間にかそれにも慣れてしまったのだった。

とにかく、<普通>ではないものの、それにさえ慣れてしまえば、彼女にとっては実に快適な職場なのである。

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