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いつもと違う

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人間というものは、頑迷で変化を嫌うと思われている者であっても、時間が経過し経験を積むことで僅かずつだが変化するものである。

また、相手によってもそれは変わる。

他人の存在を疎み避けていた桃弥とうや真猫まなを受け入れたのがその大きな証拠だろう。

これがもし、他の誰かなら受け入れていなかったかもしれない。そもそも真猫まなが普通の子供だったらここまでたらい回しにされることもなかったと思われる。

けれども、そんな真猫まなだったからこそ彼の下に来ることになり、そんな真猫まなだったからこそ、彼に様々なことを考えさせ、影響を与えたのだった。

『相手によっては傍に置いてもいい』

と思わせるくらいには。

そしてそれは、玲那にとっても同じだったかもしれない。

様々な事例の、事情を抱えた子供と接し、なにより彼女自身が心に大きな傷を負った人間だったが故に真猫まなのような子供を救うことこそが彼女の望みであり、だからこそ真猫まなのことを受けとめる努力をした。その中で、自分以外にも真猫まなをここまで受け止めることのできる桃弥とうやに出逢い、彼女が知るそれまでのどんな男性とも違った彼に対して無意識のうちに、

『彼は、他の男性とは違う』

という認識を持つに至ったとしても、何ら不自然なことではなかったと思われる。

そういう二人が出逢ってしまったということだ。

さりとて、およそ他人との関わり合いに疎い桃弥とうやと、男性に対してこれまで強い嫌悪感を抱いてきた玲那とでは、そうそう話が進む訳もなく、この日はお互いにぎくしゃくしながらも、取り敢えず何事もなく別れたのだった。

ただ、玲那が帰ってからも桃弥とうやは、彼女のことを考えている自分に気が付いてしまった。

『僕はどうしてこんなに宿角先生のことが気になってるんだろう……?』

自分の中に芽生えた気持ちが理解できず、彼は戸惑っていた。

いつものように作業する為に机に向かうのに、気付けば玲那のことを考えてしまって手が動かない。

一時間くらいそうやって全く進まない作業をして、

『駄目だ。風呂にでも入って気分を変えよう』

と思い直し、先に真猫まなが入って風呂で遊んでいたところにいつものように入っていった。

すると真猫まなが、桃弥とうやを見るなり、

「……?」

という感じで小首をかしげた。これは挨拶というよりはそのまま戸惑っているのだと思われる。

桃弥とうやの様子がいつもと違うことを感じ取ってしまったのかもしれない。

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