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僕も結局

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両親が世話を任せっきりにしたことで、祖父の性格をそのまま受け継いでしまったらしい桃弥とうやだったが、本人はそれを苦にしたことはなかった。ただ周囲が、

『空気の読めない、ノリの悪い奴』

『何を考えてるか分からなくて不気味な奴』

と勝手に評しただけである。だから彼も、自分を疎む周囲とは距離をとるようにしただけだ。それがいつしか、修復不能なまでに大きな溝になっていたというところか。

彼自身は決して、他人を傷付けたり苦しめたりすることを良しとするタイプではなかった。

その辺りも、祖父に似ていると思われる。

とかく世間は、<普通>でない者を疎む。人畜無害でそっとしておけばトラブルも特に起こさない人間を、自分達の<普通>に従わせようとして余計な干渉を行う。結局、それがトラブルの原因になるというのに。

幸い、桃弥とうやはそういう周囲の干渉自体を受け流せるタイプだったことで、大きなトラブルにはならなかった。彼も、自分の価値観や感覚を無理に周囲に分からせようとしなかった。ただ何を言われても大人しく引き下がって距離を取っただけである。

これがもし、他人に対して攻撃的な気性を持つ人間だったら、大きな事件のきっかけにもなっていたかもしれない。

余計な真似をして<事件を作った>という事例は少なくない筈だった。

桃弥とうやもそれは何となく察していた。だから意識して他人とは争わないようにしてきた。真猫まなを押し付けられた時も、頑迷に固辞して諍いになるのを避けようとしただけだった。

けれど……

『こういうのも悪くないな……』

真猫まなを膝に座らせて、のんびりを食事をとる。確かに食べにくくはあるものの、食事にも元々あまり興味がなかった彼にしてみれば、『邪魔をされてる』と目くじらを立てる必要もなかった。

それよりも、彼女の重みや体温や鼓動といったものが感じ取れることに、穏やかな気持ちになっていくのを感じていた。

『こういう風に人間のぬくもりみたいなものが心地好いってことは、僕も結局、人間だったってことか……』

そんなことも思う。

<普通>を押し付けてくる他人が煩わしくて、関わらないようにするのが一番だと思っていたのが必ずしもそうではないことに気付かされて、思わず苦笑いが込み上げてくる。

すると、何か気配を感じたのか、真猫まなが彼の方に振り返った。これといって意図を感じさせる訳でもなくただ真っ直ぐに向けられる視線に、

「ごめん、大丈夫だよ。何でもない」

と応える。

それを理解したのかしてないのか定かではないが、真猫まなはまた正面を向いて食事に戻ったのだった。

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