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正月

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その日を境に、食事の時には真猫まな桃弥とうやの膝に座るようになった。

正月も、その調子で過ごした。

桃弥とうや自身は<おせち>は好きではなかったので、ごまめと雑煮だけをハウスキーパーらに用意してもらって食べた。

ただし、真猫まなに餅を与えると喉に詰まらせる危険性があったので、彼女の椀には餅は入っていない。また、あまり熱いものは嫌がるので十分にぬるくしたものを与える。

それを、鷲掴みしたスプーンで食べるのだ。

また、彼女は、甘く煮られたごまめも好きだった。それを与えると、椀にいっぱい入ったものでもきれいに食べた。

でも、そのあとはどうしても口の周りがベタベタになってしまうので、風呂で顔を洗ってやる必要があるが。

けれどそれも、桃弥とうやにとっては苦になるようなものではなかった。

『小さい子だと思えばいいんだな』

と、割り切っていたからだ。

『考えてみれば僕もこの子も家族から<要らないもの>として棄てられたみたいなものか。棄てられた者同士、身を寄せ合って生きるのもありかもしれない』

とも思った。

そうすると自然と彼女の頭を撫でることもできる。

本来は、他人に触れることも好きではなかった。他人と関わるのがそもそも好きではなかったから当然か。

真猫まなにとっても桃弥とうやの存在は幸いだっただろうが、彼にとっても彼女の存在は、己を見詰め直すきっかけとして最適な存在だったと思われる。

『こういう相手もいるんだな』

と思い直すきっかけになったのだから。

幼い頃から桃弥とうやは、何もかもを悟り切ったような態度を見せる、可愛げのない子供だった。親の言うことには素直に従うが、同時に、『仕方ないから言うことを聞いてあげるよ』という態度が透けて見えることで、逆に両親を不安にさせた。

「何を考えてるのか分からなくて、怖い」

両親にそう思わせる子供だった。

ただそれも、ひょっとすると祖父の影響かもしれない。彼の両親は、仕事が忙しいからと、幼い彼の世話を父方の祖父に任せっきりにしていたのだ。その祖父が、彼によく似た飄々とした掴みどころのない人物だったのである。

桃弥とうやの父親が中学になった頃に実の父親が亡くなって、母親(つまり桃弥とうやの祖母)が再婚した相手だった。だから血の繋がりはない。

彫金師だというその人物は、仕事はとても真面目だが、人付き合いは得意ではなく、結婚したのも見合いを勧められて、断り切れなかったというのが理由であった。

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