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宿角玲那の奇行

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世間一般の<普通>とは大きくかけ離れていても、真猫まなの学校での生活は概ね順調と言えるものだっただろう。

そしてその背後には、学校側の、面倒なことにはなるべく関わりたくない事なかれ主義が宿角玲那すくすみれいなに彼女の指導を丸投げする形になり、それが逆に良い効果を表していたのだった。しかしそれも、問題が起こらないということが前提になる。一たび何か問題が生じれば、学校側の事なかれ主義が障害になることも十分に想定された。だから玲那は、彼女の指導に対して慎重の上にも慎重を期した。

真猫まなさんが落ち着いていられるということが、他の子達の学習の妨げにならないということですからね』

その甲斐もあり、ここまで特に問題もなかった。そして今日は、彼女にとって初めての水泳の日でもある。水泳と言うよりは、今日のところはプールに慣れてもらう為の単なる水遊び程度の内容を予定していたのだが。

吉泉きっせん小学校では、上下セパレートでアンダーがショートパンツ型になった水着を、女子用の学校指定のものとして使っている。当然、彼女もそれを着ることになる。

が、実は、それを彼女に着てもらえるようになるまでに少々の、いや結構な苦労があったりしたのだが。

と言うのも、普段着る服とは違う上、化学繊維で作られたそれを、真猫まなはなかなか着ようとしてくれなかったのである。元々服を着るのを嫌がる彼女が辛うじて着てくれるのは綿や絹といった天然素材のものと、一部の特に着心地のいい化繊のみに限られていたのである。

仕方ないのでその日は無理強いはせず、とにかく自分達が痛いことや苦しいことをさせる為にそれを着せようとしてるのではないと彼女に理解してもらうことを優先し、

「私が真猫まなさんに水着を着てもらえるようにしてみます」

と言って、玲那は、毎日笹蒲池邸に訪問しては彼女と一緒にお風呂に入るということを行ったのだった。しかも、自らセパレート型の水着を着て。

冷静になればよくもまあ生徒の家でそんなことができるものだと言えなくもないが、玲那にしてみればあれこれ思案した上での苦肉の策だったのである。

笹蒲池桃弥ささかまちとうやがそういうことをあまり気にしない性分だったことがその決断の後押しをした。さすがに露骨に『何をしてるんだ?』というような視線を向けられるようでは、ここまでのことはできなかっただろう。

とは言え、普通に考えればこれは奇行とも言える。実際、玲那は後々、この時のことを思い出しては、

『恥ずかし~!』

などと一人身悶えるということを経験する羽目になってしまったのだった。

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