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彼女の振る舞い

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家での真猫まなの様子を確かめられて、玲那は本当にホッとしていた。

『帰るなり服を脱いだのには驚きましたが』

自分が見てる目の前でランドセルを放り出したのと同時に服まで脱ぎだした様子には驚かされつつ、

『それだけ真猫まなさんにとってはリラックスできる場所だということですね』

とも納得できた。

実際、彼女がしっかりとその目で確認した真猫まなの様子も、非常に落ち着いていて穏やかに振る舞っていたように見えた。

本当に猫のように自由で、ゆったりとしていて、ふわりとした柔らかい空気を纏っているようにさえ感じられた。これなら、家でのことは桃弥とうやらに任せておいていいだろう。そう確信できたのだった。



一方、宿角玲那すくすみれいなが何をしに来たのか、桃弥とうやは必ずしも理解もしていないし強く関心も抱いてはいなかった。彼にとっては、人形を作る以外のことは無難にやり過ごせればそれでいいという程度のことでしかなかったのである。

玲那が帰り、作業を終えたハウスキーパー達も帰り、再び二人きりになったけれど、彼はただ真猫まなの自由にさせた。それと同時に、猫のように気ままに家の中を歩き回る姿を作業台の椅子に座ったまま静かに眺める。

すると真猫まなは、部屋のあちこちで鼻を近付けてすんすんと匂いを嗅いでるのが分かった。その姿がまた、自分の縄張りの確認をしている猫に見える。

それをぼんやりと見詰めていると、不意に、彼の中に何かが『下りて』くる感覚があった。

『うん、きたきた。よし!』

声には出さず一人頷いて、作業台に向き直る。そして人形の材料を手に取り、作業に取り掛かる。

それからは、真猫まなが何をしていようと一切構うこともなく、黙々と手を動かした。

『そうそう。これだ。きたぞ』

無意識のうちに口元が緩み笑顔になっていることを彼は気付いているのだろうか。

この姿が、彼の創作意欲がフルに発揮された状態である。こうなるともう、本人の中で一段落がつくまでは話し掛けられてもすぐには気付かない。

そして真猫まなも、それをいいことに勝手に振る舞う。

家は大きくて広いが、そこに置かれているものは極めて少なく、必要最小限のものしかない。他人に勝手に触れられて困るものは戸棚にしまってあるし、真猫まなが迂闊に触れると危険そうなものはすべて片付けてある。

だから彼女の好きにさせていても、特に不安はなかったのだった。

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