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初恋人形
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この家は、エアコンによって常に心地良い気温に保たれていた。それ故、真猫が常に裸でいても大丈夫だった。と言うよりも、服を着たがらない彼女が裸でいても大丈夫なように適温に保たれていると言った方がいいかもしれない。ただその分、屋根に設けられた太陽光発電パネルでも賄いきれず、電気代が結構なものになっていた。が、現在の彼の経済力からすればどうということもなかったようだ。
「知ってる? この人形。<初恋人形>って言われてるんだよ? これを持ってると、普通は実らない筈の初恋が実るんだって」
ある人形の展覧会で、観客の若い女性が桃里の人形をうっとりと見詰めながら溜息交じりにそう漏らす。
人形作家としての桃里の評価は、『恋を実らせる人形を生み出す』というものだった。しかも本人が滅多に人前に出てこないこともあり、ファンの一部からは<精霊>などとも呼ばれていた。
もっとも当の桃弥自身はそういう世間の評価についてはまったく興味さえ抱いていなかったが。
彼の人形は不可思議な愛らしさでもって見る者を穏やかな気持ちにさせたのだという。それによって些細なことを気にしなくなり、人間関係が上手くいくのだそうだ。それが転じて、『初恋さえ実らせる』という評価になったのだと思われる。
ある人形好きの女性アイドルが、彼の人形を抱きながらインタビューに応えたことがある。
「私、このコのおかげで辛かった時期を乗り切れたんです。あの頃の私は、やっとアイドルになれたのに他人と関わるのが怖くて。マネージャーとかスタッフの人達ともギクシャクしてしまって。だけどこのコが私のことを慰めてくれて、それで優しい気持ちになれて、細かいことでイライラしなくなって」
と。
それはあくまで彼の人形を手にした人間の個人的な感想だろう。桃弥自身はそんなことを意識して人形を作っている訳ではなかった。彼はただ、自分の中に湧き上がってくる衝動に突き動かされるように人形を作っているだけでしかない。そのことが結果として彼の人形を手にした者に何か訴えかけてくるものを感じさせるというだけの話なのだろう。
創作物というものは、えてしてそういう一面を持つものとも言えるのかもしれない。彼の人形もまた、そういうものの一つでしかないということだ。
そして今、彼の造る人形はある変化を見せようとしていた。しかしそれは、彼の人形から受ける印象をこれまでと違うものにしてしまうものではなかった。むしろさらに愛らしさを増すものだったと思われる。
もっとも、それが彼の下に来た一人の少女の影響であるということを知る者は、まだ誰もいなかったのだが。
「知ってる? この人形。<初恋人形>って言われてるんだよ? これを持ってると、普通は実らない筈の初恋が実るんだって」
ある人形の展覧会で、観客の若い女性が桃里の人形をうっとりと見詰めながら溜息交じりにそう漏らす。
人形作家としての桃里の評価は、『恋を実らせる人形を生み出す』というものだった。しかも本人が滅多に人前に出てこないこともあり、ファンの一部からは<精霊>などとも呼ばれていた。
もっとも当の桃弥自身はそういう世間の評価についてはまったく興味さえ抱いていなかったが。
彼の人形は不可思議な愛らしさでもって見る者を穏やかな気持ちにさせたのだという。それによって些細なことを気にしなくなり、人間関係が上手くいくのだそうだ。それが転じて、『初恋さえ実らせる』という評価になったのだと思われる。
ある人形好きの女性アイドルが、彼の人形を抱きながらインタビューに応えたことがある。
「私、このコのおかげで辛かった時期を乗り切れたんです。あの頃の私は、やっとアイドルになれたのに他人と関わるのが怖くて。マネージャーとかスタッフの人達ともギクシャクしてしまって。だけどこのコが私のことを慰めてくれて、それで優しい気持ちになれて、細かいことでイライラしなくなって」
と。
それはあくまで彼の人形を手にした人間の個人的な感想だろう。桃弥自身はそんなことを意識して人形を作っている訳ではなかった。彼はただ、自分の中に湧き上がってくる衝動に突き動かされるように人形を作っているだけでしかない。そのことが結果として彼の人形を手にした者に何か訴えかけてくるものを感じさせるというだけの話なのだろう。
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そして今、彼の造る人形はある変化を見せようとしていた。しかしそれは、彼の人形から受ける印象をこれまでと違うものにしてしまうものではなかった。むしろさらに愛らしさを増すものだったと思われる。
もっとも、それが彼の下に来た一人の少女の影響であるということを知る者は、まだ誰もいなかったのだが。
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