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初めての集団登校

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昔に比べればずいぶんとマシになったかもしれなくても、今でもやはり役所というのはいささか頭が固く四角四面な思考に陥りやすいものなのかもしれない。なにしろ、人間としての常識的な感覚を一切身に付けられない真猫まなのことさえ、『とにかく学校に通わせろ』の一点張りなのだから。

『子供に教育を受けさせるとは何か』という点について、それが意味するところを、その本質についてよく精査して柔軟に対応してくれればいろいろと方法も見付かるかもしれなくても、誰も桃弥とうやにそれを教えてはくれなかった。だから彼の方も、

『学校に通わせろというのならそうするけどさ、それでどうなっても僕は知らないよ』

と、少々投げやりな気分にもなり、かつ、それが彼の本音だった。

『まあでも、幸い、時間の融通は付けやすい仕事だし、真猫まながちゃんと学校に行って帰れるようになるまで付き添いくらいするけどさ』

やや皮肉交じりながらも、そう考えてもいる。

彼が送り迎えを了承したのは、必ずしも実は彼女の為ではなかった。どちらかと言えばむしろ自分自身の為だったと言った方がいいかもしれない。ただそれでも、結果として彼女や、彼女が他の児童に何かするようなことを未然に防げるのであれば、目的はそれほど重要ではないだろう。子供達の無事が担保されればそれでいいのだから。

しかも、彼自身にとっても興味深かったのは、この子供達が非常に大人しくて従順だったということだった。

『近頃の子供はいかにも躾がなってないみたいな話も聞くけど、いやいや、むしろ従順すぎるくらい従順でしょ』

集団登校の為に集まっている子供達のことを見て、桃弥とうやはそう感じていた。

全員が集まるまで待っている間も、自分が子供の頃にはふざけて騒ぐ子供も必ず何人かいたというのに、ここの子供達は酷く大人しくて、会話をするとしてもひそひそ声を潜めていたくらいである。実際に通学する時も、若干、列が乱れることはあっても、意外なほどに淡々と歩く。この集団だけの特徴かと思えば、途中で合流した他の班の子供達も似たような感じだった。

そんな中、真猫まな自身も特に何か問題を起こすでもなく、周囲の子供達に合わせるように黙々と歩いて無事に学校へと辿り着いた。すると校門のところ立っていた教師の中に、宿角玲那すくすみれいなの姿もあった。

「おはようございます」

そう声を掛けられて、桃弥とうやも「おはようございます」と最低限の挨拶は交わした。

真猫まなさん、おはよう」

宿角玲那すくすみれいなに声を掛けられながら特に表情を変えることもなく大人しく連れて行かれる彼女を、桃弥とうやは黙って見送ったのだった。 

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