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彼女と彼女
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とは言え、いくら受け入れるしかないのが分かっていても学校側としてもトラブルは回避したかった。だからどうにか真猫を上手く<調教>、いや、<指導>できる教員を手配して欲しいと教育委員会に泣きつき、いや協議し、非常に特殊な事例ということで例外的に彼女の為だけに養護教諭をつけることを決定した。偶然と言うべきかそれとも何者かの為せる業か、彼女のような児童には最適と思われる人材がいたのである。
それは、何度目かの学校での面談の場であった。いかにも事なかれ主義の役人気質を絵に描いたような校長が、一人の女性を紹介してきた。
「こちらは、養護教諭の宿角玲那先生です。彼女が、真猫さんの学校での生活をサポートしてくれます」
その言葉に軽く会釈してきたその女性は、見たところ三十に届くか届かないかと言った感じの、美人と言って差し支えない整った顔立ちをした、しかしこちらの全てを見透かそうとするかのような真っ直ぐな視線が印象的な、不思議な気配をもった人物だった。
「よろしくお願いします」
笹蒲池桃弥は素直に頭を下げ、そう言った。だが彼はこの時、直感的に感じ取っていたのだった。
『この宿角玲那という女性であればきっと大丈夫じゃないかな』
と。根拠はないがとにかくそう感じてしまったのだ。
二人は殆ど言葉を交わすことなく互いに真っ直ぐ視線を交わしつつ校長らからの説明を受けただけだったが、それでもう十分だった。これなら安心して任せられると桃弥は思わず笑みをこぼしていた。
実際に、宿角玲那が真猫を上手く指導できるのか、簡単ではあるが前もって確かめてみる為に、空き教室で二人きりにして、校長と教頭と学年主任の教師と桃弥が廊下からその様子を窺ってみた。
もちろん真猫は酷く警戒し、決して近付こうとはしなかった。そんな彼女の前で、宿角玲那は何故か色紙を取り出し、それを折り始める。彼女に声を掛けるでもなく、視線を向けるでもなく、ただいくつもいくつも。
すると真猫が、宿角玲那の手から次々と生み出されるものを不思議そうに眺めているのが、離れたところから窺っている桃弥らにも見て取れたのである。そしてそんな状態が三十分ほど続いた後、意外なことに真猫の方から宿角玲那のところへと距離を縮めていったのだ。
『へえ…!』
桃弥は見た。自分のすぐ傍まで来てくれた少女に向けた宿角玲那の表情を。
それは、とてつもなく柔らかく穏やかで、全てを慈しみ包み込むかのような笑顔であった。
それは、何度目かの学校での面談の場であった。いかにも事なかれ主義の役人気質を絵に描いたような校長が、一人の女性を紹介してきた。
「こちらは、養護教諭の宿角玲那先生です。彼女が、真猫さんの学校での生活をサポートしてくれます」
その言葉に軽く会釈してきたその女性は、見たところ三十に届くか届かないかと言った感じの、美人と言って差し支えない整った顔立ちをした、しかしこちらの全てを見透かそうとするかのような真っ直ぐな視線が印象的な、不思議な気配をもった人物だった。
「よろしくお願いします」
笹蒲池桃弥は素直に頭を下げ、そう言った。だが彼はこの時、直感的に感じ取っていたのだった。
『この宿角玲那という女性であればきっと大丈夫じゃないかな』
と。根拠はないがとにかくそう感じてしまったのだ。
二人は殆ど言葉を交わすことなく互いに真っ直ぐ視線を交わしつつ校長らからの説明を受けただけだったが、それでもう十分だった。これなら安心して任せられると桃弥は思わず笑みをこぼしていた。
実際に、宿角玲那が真猫を上手く指導できるのか、簡単ではあるが前もって確かめてみる為に、空き教室で二人きりにして、校長と教頭と学年主任の教師と桃弥が廊下からその様子を窺ってみた。
もちろん真猫は酷く警戒し、決して近付こうとはしなかった。そんな彼女の前で、宿角玲那は何故か色紙を取り出し、それを折り始める。彼女に声を掛けるでもなく、視線を向けるでもなく、ただいくつもいくつも。
すると真猫が、宿角玲那の手から次々と生み出されるものを不思議そうに眺めているのが、離れたところから窺っている桃弥らにも見て取れたのである。そしてそんな状態が三十分ほど続いた後、意外なことに真猫の方から宿角玲那のところへと距離を縮めていったのだ。
『へえ…!』
桃弥は見た。自分のすぐ傍まで来てくれた少女に向けた宿角玲那の表情を。
それは、とてつもなく柔らかく穏やかで、全てを慈しみ包み込むかのような笑顔であった。
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