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結びの章

吸血鬼としてのルール

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『知人の吸血鬼を通じてエンディミオンの父親のことを調べてもらったんだ』

その上で、ミハエルは言う。

「たぶん、エンディミオンの父親は既に亡くなってる……」

「……本当…!?」

思わず声を上げたアオにミハエルは少し悲しそうに微笑んだ。

「おそらく間違いないと思う。もう十年以上前の話だけど、別のバンパイアハンターと戦って相打ちになる形で死んだ吸血鬼がいて、それがダンピールを生み出す研究をしていたんだって。

でも、そんなことをしてると同じ吸血鬼からも疎まれて、それで止めるために何度も吸血鬼とも戦うことになったらしい。その中で追い詰められて、バンパイアハンターにとどめを刺される形になったみたいだ……」

「そんなことが……」

アオは驚いていたものの、ミハエルは淡々としていた。

「人間でも、罪を犯して外国に逃げた人は、国際的に指名手配されたりするよね。吸血鬼のネットワークでも同じようなものはあるんだよ。

今の僕達はただの怪物として生きてるわけじゃない。だから、僕達吸血鬼としてのルールを破った者は追われることになるんだ。

エンディミオンの境遇を聞いた時に予感はあったよ。もしかしたらって……」

「……エンディミオンはそのことを知らなかったの……?」

「…たぶん、知らないとは思う。吸血鬼とバンパイアハンターとは、基本的に情報共有してないし、普通の吸血鬼は、自分からは積極的にそういう情報に触れようとしないしね。僕もエンディミオンのことがなかったら確認しようとは思わなかった」

「じゃあ、それを彼に教えてあげたら……!」

アオは身を乗り出してそう言ったけれど、ミハエルは静かに首を横に振った。

「それは、大きなお世話ってものだと思う……少なくとも僕達の口からは聞きたくないだろうね。

聞いたところで彼が素直に信じるとも思てないし……」

「そうなの……?」

「うん……

それに、知ろうと思えばバンパイアハンターのネットワークを使えば情報くらいは入ってきてたかもしれない。でも、彼の目的は吸血鬼の殲滅だったからね……

父親が亡くなったと知ったとしても、それ以外の吸血鬼も彼にとっては<獲物>だったから……

それよりも、今、さくらと一緒にいられることの方が彼にとっては<タガ>になってると思う。

だからいずれ、さくらが亡くなったら以前の彼に戻る可能性はあるけど、彼にも<家族>ができてしまったからね。さくらが亡くなっても自分との間に生まれた子供達がいる。その子達のことを思えば、彼はもう、以前の彼には戻れないんじゃないかな……」

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