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命の章

子育てに悩む親も

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こうして育児休業を取ったさくらは、自宅できたるべき日に備えることになった。

検診にも欠かさず通い、胎児の成長が順調であることを確かめる。

胎児は、双子だった。エコー検査ではほぼ間違いなく女の子と男の子の双子であることは確認されていた。

性別が違うので、<二卵性双生児>ということになるだろう。

しかしそんな細かいことはどうでもよかった。赤ん坊が元気だというだけでさくらは満たされるのを感じていた。

ただ同時に、双子の胎児を抱えた生活というのはなかなか大変だっただろう。

出産に向けての体力作りも兼ねた散歩の途中でアオの家にも寄ったが、その度にふうふうと息を切らし、汗だくになっていた。

なので、アオの家でシャワーを浴びてまた散歩を続けるというのが習慣になった。だから着替えなどもアオのところに置かせてもらっているし、洗濯はミハエルが行ってくれた。

それをアオもミハエルも『家族だから当然』と喜んでした。

しかも、あきらも手伝ってくれるのだ。彼としてはただ『遊んでいる』感覚なのだろうが。

「せんたくせんたく~♡」

ドラム式の洗濯機に洗い物を入れて洗剤を投入し、ごんごんと回る様子を、洸は楽しげに見つめていた。

そしてそんな洸の姿を、さくらが目を細めて見守る。

世の中では子育てに悩む親も多いと聞くが、さくらは自身の両親が自分にしてくれたことを思い出すだけで接し方が分かるし、アオは自分の両親と兄がしていたことを反面教師にすれば済むし、ミハエルは人間と関わることはなるべく避けつつも結果として何人もの子供の世話をすることがあった経験を活かし、洸が不安などから感情的になる前に対処できるので、<イヤイヤ期>についてもさほど苦労もなく過ごすことができた。

まあ、洸の場合は成長が速いので、そういう期間が短いというのもあるが。

その一方で……

「生まれてくる子がダンピールだった場合、成長は間違いなく遅いよな」

アオがそう口にする。ミハエルやエンディミオンを見ていればすぐに浮かぶ、素直な疑問だっただろう。

人間の子供の場合は問題ないものの、やはりダンピールともなれば勝手も違うにだろうし。

それに対して<先輩>であるミハエルは、

「確かに、人間と同じようにはいかないだろうね。ただ、ある程度まで、そうだな、人間の年齢で言えば五歳くらいまでは、少し遅いかなっていう程度で、そんなに極端には変わらないと思う。

だって、赤ん坊の時期があんまり長いのはやっぱりリスクだし、それなりの大きさまではなるべく早く育って自分の身は自分で守れるようにならなくちゃいけないからね」

と応えてくれた。

「ああ、そりゃそうか。でも五歳くらいまでになれば、人間なんか圧倒できるってことかな?」

「そういうことだね」



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