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命の章

状況に合わせて

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「私は別に、子を生みたくない、欲しくないという人間に対して、『子供を生むべきだ!』と言うつもりは毛頭ない。正直、私だってミハエルに出逢う以前は自分が子供を持つなど考えてもいなかった。むしろ、

『子供なんて生むべきじゃない』

とさえ考えてたクチだ。それが今じゃ、

『生んでもいい。いや、生みたい』

と考えているんだから、いい加減なものだ。

だが、人間というのは状況に合わせて自分を更新していける生き物だと思う。

『信念を曲げない』

と言えば聞こえもいいかもしれんが、合理性を欠いたそれはただの<原理主義>というものだろうな。現実にそぐわなくなっても固執するのは自殺行為だとも思うんだ。

私は、ミハエルと出逢って私の知らなかった現実を知り、さくらがエンディミオンと出逢って彼を変えてしまったのを目の当たりにして、命というものを再認識させてもらったんだ。

命が生まれてくることは、決して<不幸>じゃない。自ら幸せを作り出すことを諦めることこそが不幸なんだと私は感じた。だから私も、命を生み出すことをもはや躊躇わない。機会さえあればと思う。

まあ、その機会が巡ってこなければそれはそれで受け入れるがな」

アオはさくらに向かってそう語った。その表情は清々しいものだった。

さくらも応える。

「私も、先生と出逢えたことで今の自分になれたんだってすごく実感しています。

前にも言いましたが、私の両親は、私が未婚の母になることさえ受け入れてくれる人達ですけど、同時に、無理に結婚して子供を生めとも言わなかったんです。『さくらの好きにすればいい』と言ってくれました。

子供を生むことになるかどうかも、ある意味じゃ時の運。エンディミオンと出逢ってなければ、エリカさんと秋生しゅうせいさんに出逢ってなければ、私は今でも妊娠なんてしてなかったでしょうね。

そしてそれでいいんだと思っています。

生む機会があれば生めばいい。それがなければ無理に生む必要はない。と」

そんなさくらに、アオはとても嬉しそうに微笑んだ。

「<出版社>というものに対しては今でも不信感もあるし思うところはある。だが、そこにお前がいてくれたことで私は救われた。<蒼井霧雨あおいきりさめ>がこうして作家でいられるのは、何よりもお前のおかげだと思う。

そして、作家と担当編集というものとは別に、私は、お前に幸せになって欲しい。お前を幸せにしたい。一緒に暮らすのはエンディミオンかもしれないが、私もお前を幸せにしたいんだ。

これはもしかしたら<愛>と呼ばれるものかもしれないな。私がもし男だったら、お前と結婚したかった気がするよ」

アオの言葉に、さくらも頬を染めつつ、

「私もそう思います」

と返したのだった。
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