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家憑き童子の章

少し違って

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唐揚げができて、三人で夕食にする。

「からあげ~♡ からあげ~♡」

あきらは嬉しそうだ。エンディミオンも黙って大皿に山盛りになった唐揚げを黙々と食べていた。

微笑ましい夕食時が過ぎてまた三人で風呂に入り、寛ぐ。

『ああ……なんかいいなあ……』

さくらはただそう思った。

結婚については正直考えていなかったものの、こうして家族がいるというのはとてもいいと感じた。

もとより彼女は、家族関係の良好な家庭に育ったことから、家庭というものに対してネガティブなイメージは持っていなかった。ただまだ、結婚とかというものに実感がなかっただけである。

しかも両親は、

『結婚はまだか?』

『孫はまだか?』

などと訊いても来ない。

「さくらが生きたいように生きればいい。私達はさくらを育てられただけで満足だ」

とも言ってくれていた。

大学の頃、世の中の、親に関する様々な愚痴やネガティブな発信を目にする度に、

『こんな親子がいるんだ…!?』

と驚かされても来た。それに慣れてくると、今度は自分の両親の素晴らしさを実感できてくる。

『私は本当に恵まれた家庭に育ったんだな……』

そして、アオの担当になり、彼女の家庭の話を聞くと、涙さえ溢れてきた。

「な…なんだお前!? なんで泣く!?」

驚くアオに対し、

「分かりません……でも、悲しくて……すごく悲しくて……」

と応えた。

思えばこの時から、ただの編集と作家という以上の関係だったのかもしれない。アオ以外にも担当している作家はいるものの、本音を言わせてもらえれば仕事でなければ積極的に関わりたいとは思えない相手もいる。

彼女と出逢い、そしてエンディミオンと出逢い、洸とも出逢った。

もう別に結婚なんてする必要も感じなかった。

もし素敵な男性と出逢えたらその時に改めて考えればいいと思えた。

それに……

『それにもう、エンディミオンがいるから…ね……』



その夜、さくらはまた夢を見た。

だけどその夢に出てきたエリカは、少し違っていた。

『髪が…伸びてる……?』

そう。これまで見た彼女の髪は、肩くらいまでの長さだった。それが突然、胸までの長さになっていたのだ。

体は変化しているように見えないのに。

……いや、違う。<変化>はしている。しているが……

『なんか、やつれてる……?』

さくらが感じたとおりだった。エリカは、体は成長していないにも拘らず。明らかに頬がこけ、目が落ちくぼんでいたのだ。

そして、

「エリカ! 体の具合はどう?」

柱に背を預けて縁側に座りぼんやりと空を眺めていた彼女に、垣根の向こうから声が掛けられる。それは、少年一人と少女二人の三人組だった。

『あ…もしかして……』

さくらはその三人を見て察した。何故ならその三人は、間違いなくエリカと鬼ごっこをしていた子供達で、しかも明らかに成長していたのだから。

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