166 / 291
けもけもの章
幸せになります
しおりを挟む
さくらは、抱き上げた洸の感触がみるみる変わっていくのを感じていた。その彼女の視線の先には、体毛が消え失せ肌が露出し、そして明らかにプロポーションも変わっていく光景が。
そして数十秒後には、さくらの腕の中には、柔らかそうなピンク色の肌をした<人間の赤ん坊>が抱かれていたのだった。
「人狼……」
アオがそう声を漏らす。それは、洸がまぎれもなくウェアウルフであることを示す現象であった。
「やっぱり、さくらのことをお母さんだと思ってるんじゃないかな。だからさくらと同じ人間の姿を、無意識のうちにとったのかもしれない。
ウェアウルフと一緒に暮らしてた知人の話によると、どちらの姿を普段とるかは、最終的には本人次第らしいし。
その知人のところのウェアウルフは、狼の姿を選んだ実の親と長く一緒に暮らしてたからか、普段は狼として飼われてるという形をとってたけど」
ミハエルが説明してくれる。
「そっか……もし洸がそう思ってくれてるんだったら嬉しいです……」
自分の腕の中ですやすやと眠る<赤ん坊>を見るさくらの表情は、完全に<母親>のそれだった。
「洸……」
その名前を呟き、改めて存在を確かめる。
するとさくらの胸の中に、とても大きなあたたかい<かたまり>が噴き上がるのを感じた。
エンディミオンと一緒にいる時にも感じるもの。
おそらく、<母性>と呼ばれるものなのだろう。
止めどもなく溢れ出るそれに自分が満たされていく。
頬が緩んでしまって抑えが効かない。
「洸……」
何度も名前を口にしてしまう。名前を呼ぶのさえ心地いい。
「そうかあ、これが<赤ちゃんの魔力>ってやつかあ……」
うっとりと洸を見詰めるさくらの様子に、アオはしみじみと呟いた。まさに彼女の言う通りだろう。それに捕らえられた者はこうなってしまうのだ。
『なぜ子供をつくるのか?』
理屈ではない。ただただそれを求めてしまうからだ。
もちろん、こうやって実際に赤ん坊に触れてもそうならない人もいる。どちらが正常でどちらが異常とかいうのは関係ない。ただそうなる人もいるというだけだ。そしてさくらはそうなる人間だったというだけである。
「洸……生まれてきてくれてありがとう……」
本当に自然とそう言えた。ただただ心から。
ミハエルは言う。
「そう言ってくれる人がいれば、もう十分に幸せだと思う。僕とアオも力になるよ。洸をこれからも幸せでいさせてあげて欲しい」
彼の言葉に、さくらも当然のように頷いていた。
「はい、エンディミオンと洸と一緒に、幸せになります」
そして数十秒後には、さくらの腕の中には、柔らかそうなピンク色の肌をした<人間の赤ん坊>が抱かれていたのだった。
「人狼……」
アオがそう声を漏らす。それは、洸がまぎれもなくウェアウルフであることを示す現象であった。
「やっぱり、さくらのことをお母さんだと思ってるんじゃないかな。だからさくらと同じ人間の姿を、無意識のうちにとったのかもしれない。
ウェアウルフと一緒に暮らしてた知人の話によると、どちらの姿を普段とるかは、最終的には本人次第らしいし。
その知人のところのウェアウルフは、狼の姿を選んだ実の親と長く一緒に暮らしてたからか、普段は狼として飼われてるという形をとってたけど」
ミハエルが説明してくれる。
「そっか……もし洸がそう思ってくれてるんだったら嬉しいです……」
自分の腕の中ですやすやと眠る<赤ん坊>を見るさくらの表情は、完全に<母親>のそれだった。
「洸……」
その名前を呟き、改めて存在を確かめる。
するとさくらの胸の中に、とても大きなあたたかい<かたまり>が噴き上がるのを感じた。
エンディミオンと一緒にいる時にも感じるもの。
おそらく、<母性>と呼ばれるものなのだろう。
止めどもなく溢れ出るそれに自分が満たされていく。
頬が緩んでしまって抑えが効かない。
「洸……」
何度も名前を口にしてしまう。名前を呼ぶのさえ心地いい。
「そうかあ、これが<赤ちゃんの魔力>ってやつかあ……」
うっとりと洸を見詰めるさくらの様子に、アオはしみじみと呟いた。まさに彼女の言う通りだろう。それに捕らえられた者はこうなってしまうのだ。
『なぜ子供をつくるのか?』
理屈ではない。ただただそれを求めてしまうからだ。
もちろん、こうやって実際に赤ん坊に触れてもそうならない人もいる。どちらが正常でどちらが異常とかいうのは関係ない。ただそうなる人もいるというだけだ。そしてさくらはそうなる人間だったというだけである。
「洸……生まれてきてくれてありがとう……」
本当に自然とそう言えた。ただただ心から。
ミハエルは言う。
「そう言ってくれる人がいれば、もう十分に幸せだと思う。僕とアオも力になるよ。洸をこれからも幸せでいさせてあげて欲しい」
彼の言葉に、さくらも当然のように頷いていた。
「はい、エンディミオンと洸と一緒に、幸せになります」
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる