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ナイトストーカーの章

笑顔のようにも

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子供がどういう人間に育つかは、親次第である。

これは厳然たる事実である。

<生まれつきの性格>など、あくまで『やや活発寄り』だとか、『やや内向的』だとか、ある程度の<傾向>をもたらすものでしかなく、もし本当にそんなものがあるとしても、

『胎内で脳が形成される段階に何らかの外的要因によって形成されたもの』

と考えるのが、医学的科学的に合理的な筈なのだ。

にも拘らず、子供が自身の思う通りに育たなかった場合に、

『生まれつきの性格だから』

と、あたかも『自分には何の責任もない』と言いたげなことを述懐する親もいる。

人間誰しも、何か問題が起こった時には、

『自分の所為じゃない』

『自分は何も悪くない』

と思いたがるものだろうが、現実はそんなに甘くはないのだ。<原因>がなければ<結果>は生まれないのだから。

さりとて、だからといって親に責任を問おうとしても、その親を育てたのはさらに上の世代であって、上の世代の責任を問おうとしてもまたさらに上の世代の責任を問う必要が出てくるだろう。

なので、先にも言った通り、キリがないのだ。

故に最終的には、問題を起こした当人の責任を問うだけにとどまってしまうのだろう。

しかし、たとえ責任は問われなくとも実際には責任があることを忘れてはいけないのかもしれない。でなければ、どんなにいい加減な親であっても、取り敢えず子供を成人させてしまえばその間に行った悪行の全てが免責されてしまうことにもなりかねない。

これもまたおかしな話である。



などといささか余談が過ぎたが、アオは引っ越しの準備を順調に進めていた。

物件に当たりをつけ、今日は不動産会社に案内されて候補の物件の内覧に行く日である。

「じゃあ、いってくるね」

「いってらっしゃい」

見送るミハエルに手を振って、アオはマンションを出る。

平日の午前。作家という多少時間の融通が利く仕事であることを活かし、敢えてその時間帯を内覧に充てた。

例の女性がビジネススーツに身を包んでいたことで一般的な会社員であると推察。であればこの時間帯に鉢合わせる可能性はまずないと考えてのことであった。

日中であることからミハエルには家で待機していてもらうが、ミハエルと一緒にいたところを見られているので、アオが見付かって尾行されたりしないようにということだった。

しかも、不動産屋にはマンション前まで迎えに来てもらってそこですぐに自動車に乗ってしまえばそれこそ見つかる可能性は限りなく減るだろう。

普通ならそれで十分な筈だった。

普通なら。

しかし神の悪戯か悪魔の企てか、マンションのエントランスから不動産会社の自動車に乗り込むまでの僅かな一瞬を見られてしまったのだ。

その日、たまたま休暇を取って、一日、<彼>を探す為に出歩こうとしていたあの女性に。

『あいつは……!』

アオを見付けた女性の顔には、笑顔のようにも見えるものの、よく見れば明らかに笑顔ではない得体のしれない表情が張り付いていたのだった。

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