100 / 291
ナイトストーカーの章
暴論
しおりを挟む
しかしこの時、アオが引越しの決意を固めて準備を始めたことについて申し訳なく思っているのは、さくらだけではなかった。
実はミハエルも、同じように思っていたのである。
「ごめんね、僕のせいで……」
けれどアオは、平然としていた。
「ミハエルのせいじゃないよ。気にしないで。
世の中には、こういうことになると、
『最初から出歩かないようにするべきだった』
とか言うのがいるだろうけど、私はそういうのは暴論だと思う。そんなの、
『交通事故に遭いたくなかったら家から一歩も出るな』
と言ってるのと同じだと思うんだ。問題なのはストーカーと、ストーカーを野放しにしてる周囲の人間で、被害者に原因がある、被害者が悪いって話にするのは、加害者側の理屈だと思ってる。
もちろん、実際に被害者側に大きな原因がある場合だってないとは言わないけど、被害者にどれだけの責任があるかとかなんて、具体的な証拠と突き合わせて裁判とかでやる話なんじゃないかな。
少なくとも、まったく無関係な第三者が『被害者が悪い』とか言っていいとは思わない。
今回の件だって、ミハエルに落ち度があるとは私は思わない。ミハエルは十分に注意してたよ。単に間が悪かっただけなんじゃないかな」
自分に対して熱弁を振るうアオの姿に、ミハエルは温かいものを感じていた。
アオの言ったことは、ミハエルにも分かっている。ミハエル自身もそう考えていた。だから今さら新しいことを気付かされるような内容ではなかった。しかし大切なのは内容ではなく、彼のために真剣に考えようとしてくれるその姿勢だった。
正直、ミハエルの方がずっと年上だったこともあり、彼女のことをあどけない子供のように見ていた部分があったのは否めない。
けれど、彼女は今、<家族>としてミハエルをストーカーから守り、『被害者にも責任がある』という世間に見られがちな論調からも彼を守ろうとしているのだった。
「ありがとう、アオ。アオに出逢えて僕は本当に幸せ者だ」
正直な気持ちを口にする彼に、アオが頬を染めながら言う。
「幸せ者なのは私の方だよ。はっきり言って<家族>って自分が思える人がいなかった私に、家族ができたんだ。
家族は力を合わせて自分達の家庭を守るものだと思う。誰か一人を頑張らせて一方的に守ってもらうもんじゃないと思うんだ。だから私はミハエルを守る。
ストーカーと直接戦うとかいうのは無理だけど、私のやり方でミハエルと、私達の<家庭>を守るんだ。そのためだったら引っ越しなんて物の数じゃないよ…!
って、まあ、本音を言ったらメンドクサイのも本当だけど、でも、ミハエルに何かある方がずっと嫌だ……!」
そんな二人がいる部屋の窓の外では、冷たくも、僅かに春の気配を帯びた風がゆるやかに流れていたのだった。
実はミハエルも、同じように思っていたのである。
「ごめんね、僕のせいで……」
けれどアオは、平然としていた。
「ミハエルのせいじゃないよ。気にしないで。
世の中には、こういうことになると、
『最初から出歩かないようにするべきだった』
とか言うのがいるだろうけど、私はそういうのは暴論だと思う。そんなの、
『交通事故に遭いたくなかったら家から一歩も出るな』
と言ってるのと同じだと思うんだ。問題なのはストーカーと、ストーカーを野放しにしてる周囲の人間で、被害者に原因がある、被害者が悪いって話にするのは、加害者側の理屈だと思ってる。
もちろん、実際に被害者側に大きな原因がある場合だってないとは言わないけど、被害者にどれだけの責任があるかとかなんて、具体的な証拠と突き合わせて裁判とかでやる話なんじゃないかな。
少なくとも、まったく無関係な第三者が『被害者が悪い』とか言っていいとは思わない。
今回の件だって、ミハエルに落ち度があるとは私は思わない。ミハエルは十分に注意してたよ。単に間が悪かっただけなんじゃないかな」
自分に対して熱弁を振るうアオの姿に、ミハエルは温かいものを感じていた。
アオの言ったことは、ミハエルにも分かっている。ミハエル自身もそう考えていた。だから今さら新しいことを気付かされるような内容ではなかった。しかし大切なのは内容ではなく、彼のために真剣に考えようとしてくれるその姿勢だった。
正直、ミハエルの方がずっと年上だったこともあり、彼女のことをあどけない子供のように見ていた部分があったのは否めない。
けれど、彼女は今、<家族>としてミハエルをストーカーから守り、『被害者にも責任がある』という世間に見られがちな論調からも彼を守ろうとしているのだった。
「ありがとう、アオ。アオに出逢えて僕は本当に幸せ者だ」
正直な気持ちを口にする彼に、アオが頬を染めながら言う。
「幸せ者なのは私の方だよ。はっきり言って<家族>って自分が思える人がいなかった私に、家族ができたんだ。
家族は力を合わせて自分達の家庭を守るものだと思う。誰か一人を頑張らせて一方的に守ってもらうもんじゃないと思うんだ。だから私はミハエルを守る。
ストーカーと直接戦うとかいうのは無理だけど、私のやり方でミハエルと、私達の<家庭>を守るんだ。そのためだったら引っ越しなんて物の数じゃないよ…!
って、まあ、本音を言ったらメンドクサイのも本当だけど、でも、ミハエルに何かある方がずっと嫌だ……!」
そんな二人がいる部屋の窓の外では、冷たくも、僅かに春の気配を帯びた風がゆるやかに流れていたのだった。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
「学校でトイレは1日2回まで」という校則がある女子校の話
赤髪命
大衆娯楽
とある地方の私立女子校、御清水学園には、ある変わった校則があった。
「校内のトイレを使うには、毎朝各個人に2枚ずつ配られるコインを使用しなければならない」
そんな校則の中で生活する少女たちの、おしがまと助け合いの物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる