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邂逅の章
そういうことか
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アオがさくらと話していた内容は、ミハエルが言っていることにも通じるものだっただろう。
違うという事実を認めない限り現実は見えてこない。現実を受け止めることはできない。自分の思い通りにならないと許せないと思っていては、それはただのクレーマー気質というものだと思われる。
この世はすべからく自分の思い通りにはならないものだ。思い通りになることなんて本当にごく僅かでしかない。
それなりの時間を生きてきたミハエルはそれを思い知らされてもきた。だからこそ、エンディミオンが自分を狙わずにいられないという事実さえ、人間が自分達吸血鬼を共存不可能な怪物と考えているという事実さえ、『そういうものだ』と受け止められるようにもなったのだった。
無論、だからと言ってただそれに甘んじて何もしないというのではない。狙われないよう、人間に敵と見做されないよう、努力はする。けれどその努力が必ずしも報われるわけではないという現実をミハエルは理解しているのだ。
しかし……
「ミハエルの言うことは理解したい。だけど……納得はできないよ……」
理屈としては分かる気もする。けれど、それをすぐに納得できるほど人間の<感情>は単純なものではない。これもまた事実だった。
制御できない感情が胸を締め付けて涙をあふれさせ、それが湯にぱたぱたと落ちる。
そんな彼女を見て、ミハエルはまた柔らかく微笑んだ。
「アオは本当に優しいね。そうやって僕のことを心配してくれてるのはすごく嬉しい。感謝してる。
でも、僕とアオとは別の存在なんだ。そして、<別の存在>であること自体に意味があるんだよ。自分の思い通りにならないからこそ、生きることには意味があると僕は思ってる。
アオがそうやって『理解できない』と思ってくれるからこそ、僕はアオにそれを理解してもらえるよう努力を続けることができる自分を高めることができる。
何もかもが自分の思い通りになる世界じゃ、そういう努力をしようっていう気にもならないんじゃないかな」
「……」
この時は、どうしても納得できなかったアオだったが、お風呂からあがって寛いで、原稿に向き合い、この時に感じたことをそのまま文章にしてみて、自分で何度も読み返しているうちに、
『自分の描くものが理解できない読者がたくさんいる』
という現実を自分が受け止めている、受け止めているからこそそれにめげずに創作を続けられているのだと気付き、
『ああ…! そういうことか……!』
と腑に落ちたのである。
もちろん、だからと言ってすべてが納得できたわけじゃない。ただ、彼がそういう人であることを受けとめようとは、素直に思えたのだった。
違うという事実を認めない限り現実は見えてこない。現実を受け止めることはできない。自分の思い通りにならないと許せないと思っていては、それはただのクレーマー気質というものだと思われる。
この世はすべからく自分の思い通りにはならないものだ。思い通りになることなんて本当にごく僅かでしかない。
それなりの時間を生きてきたミハエルはそれを思い知らされてもきた。だからこそ、エンディミオンが自分を狙わずにいられないという事実さえ、人間が自分達吸血鬼を共存不可能な怪物と考えているという事実さえ、『そういうものだ』と受け止められるようにもなったのだった。
無論、だからと言ってただそれに甘んじて何もしないというのではない。狙われないよう、人間に敵と見做されないよう、努力はする。けれどその努力が必ずしも報われるわけではないという現実をミハエルは理解しているのだ。
しかし……
「ミハエルの言うことは理解したい。だけど……納得はできないよ……」
理屈としては分かる気もする。けれど、それをすぐに納得できるほど人間の<感情>は単純なものではない。これもまた事実だった。
制御できない感情が胸を締め付けて涙をあふれさせ、それが湯にぱたぱたと落ちる。
そんな彼女を見て、ミハエルはまた柔らかく微笑んだ。
「アオは本当に優しいね。そうやって僕のことを心配してくれてるのはすごく嬉しい。感謝してる。
でも、僕とアオとは別の存在なんだ。そして、<別の存在>であること自体に意味があるんだよ。自分の思い通りにならないからこそ、生きることには意味があると僕は思ってる。
アオがそうやって『理解できない』と思ってくれるからこそ、僕はアオにそれを理解してもらえるよう努力を続けることができる自分を高めることができる。
何もかもが自分の思い通りになる世界じゃ、そういう努力をしようっていう気にもならないんじゃないかな」
「……」
この時は、どうしても納得できなかったアオだったが、お風呂からあがって寛いで、原稿に向き合い、この時に感じたことをそのまま文章にしてみて、自分で何度も読み返しているうちに、
『自分の描くものが理解できない読者がたくさんいる』
という現実を自分が受け止めている、受け止めているからこそそれにめげずに創作を続けられているのだと気付き、
『ああ…! そういうことか……!』
と腑に落ちたのである。
もちろん、だからと言ってすべてが納得できたわけじゃない。ただ、彼がそういう人であることを受けとめようとは、素直に思えたのだった。
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