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邂逅の章

腑抜け

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エンディミオンが大人しく待っているのは、さくらに<現実>を知ってもらおうという狙いもあった。

『いくら綺麗事を並べようと、いくらいい人ぶっていようと、吸血鬼やつらは所詮、吸血鬼だ……

人間の生き血を啜るバケモノだ…!

いずれ本性を出す。そうすればあいつだって気付くだろう。吸血鬼と人間とは共存などできないと……』

それこそがまさに彼の狙いだった。

だからこうして、あのミハエルとかいう吸血鬼が本性を表す瞬間を張っているのである。

そして、もしそこでさくらが吸血鬼に襲われて眷属になってしまったとしたら……

『その時は、俺が引導を渡してやる……』

とも。

さくらを守ると言いつつ、彼はそんなことも考えていた。

『このオレをこんなにも不機嫌にさせる女に、相応の報いを受けさせてやらねばな……』

などとも。

なのに……

なのに<その日>は、待てど暮らせど来なかった。

『今日こそは…今日こそはきっと……』

『今夜は満月だ。吸血鬼やつらの衝動も最も高まる。今日こそは…!』

と考えて、じっとその時を待った。

そんな彼の視線の先に、いつも通りに平然とした様子でアオのマンションからさくらが出てくる。

『なぜだ…!? なぜ奴は何もしない…!? 奴は腑抜けなのか!?

いや、そんな筈はない。奴の力は本物だ。なのになぜ……!?』

そう苛立ちつつも、いや、そうではなかった。自分の思っている通りにならないから苛立っているのではなく、さくらの無事な姿が見えた瞬間、ホッとしてしまった自分自身に対して苛立っているのだった。

無意識のうちに。



ただ、実はこの時、ミハエルは何度か吸血そのものは行っていた。相手はもちろん、アオだったが。

しかしそれは、強い衝動を抑える為の、ある意味では医学的な行為であって、衝動に従った激しいものでは決してなかった。だから、外の公園にいるエンディミオンにまで気配が伝わってこなかったのだ。

もっとも、たとえ伝わったとしても、眷属にする為のそれではなく、単に喉の渇きを少し癒す程度の吸血をしたくらいではさすがにさくらが吸血鬼を危険な存在だと認識を改めたりはしないだろうが。

そんなことをしている間にも時間は過ぎ、世の中ではクリスマスムードに染まっていった。

「こいつらは何をこんなに浮かれている…!? クリスチャンでもないクセに……!」

さくらの仕事の休憩時間に、彼女と一緒に夕食を食べに出たエンディミオンは忌々し気にそう吐き捨てる。

もっとも、クリスマスをダシにお祭り騒ぎをするのは他の国でもあることなので、それ自体に腹を立てているのではない。

結局のところ、ミハエルが吸血鬼としての本性を見せないことに苛立っているのだった。

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