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邂逅の章
思い通りに
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アオとミハエルがうどんを食べていた頃、さくらとエンディミオンは喫茶店に入っていた。さくらの足元がおぼつかず、何とか落ち着かせて回復させようとしてのことだ。
席に着いて、どちらもコーヒーを頼み、それを待つ間、さくらはぐったりと椅子にもたれていた。
「まったく…人間というのは脆弱で話にならんな」
そう悪態を吐いたエンディミオンだったが、その彼自身、表情にいつもの硬さがない。どこかホッとしているような、緩んだ表情だった。
もっとも、これまで彼のことをずっと見ていたさくらにしか分からないような微妙な違いだったが。
それでも確かに違っているのだ。
力なく背もたれに体を預けながら、しかしさくらはそんなエンディミオンを見て、ふわっと柔らかい笑みを浮かべていた。
「なにがおかしい…?」
それに気付いたエンディミオンが憮然とした表情で問い掛ける。
「ううん…ただ、私のところに来たのがあなたでよかったなって思ってね……」
呟くようにそう言ったさくらの表情は、どこかけだるい色香も感じさせるものだった。
『あなたでよかった』
これは、さくらの正直な気持ちだっただろう。もちろん、こんなことに巻き込まれたのは望むところではなかったものの、少なくとも彼以外のバンパイアハンターだったら自分は今頃この世にはいなかっただろうし、それに何より、この不思議な気持ちを味わうこともなかっただろうから。
そうだ。さくらは今、何とも言えない満ち足りた気持ちだった。
『戦わないで』
と言った自分の言葉を彼がちゃんと聞き入れてくれたことが嬉しかった。
確かに、彼が現れなければそもそも必要のないことだったし、<静かな戦い>は行ってたのだから完全に聞いてもらえたとは言い難いにせよ、結果としては誰も命を落としたり大きな怪我をすることもなかったのだから、それで十分だった。
何でもかんでも自分の思い通りになるなどとは彼女は思っていない。自分の望まないことであっても、最悪の事態さえ避けられればそれでいいと考えられるのも彼女の特徴だった。
何もかも自分の思い通りにならなければ気が済まないというのが許されるのは、幼い子供のうちだけだろう。この世には、そんなムシのいい話は転がってはない。
たとえそれが、創作の中であってもだ。
完全に自分の思い通りになるのは、おそらく自分でそれを描いた場合のみだろう。他人が作った創作が自分の思い通りになることは、それが他人の手によるものである限り、自分以外の人間が作ったものである限り、自分の望みと百パーセント一致するということはまずないのである。
さくらは、創作に携わる仕事をしているからこそそれを知っていた。知っていたが故に、思いがけず自分の望みが叶えられた時には素直に喜べるのだった。
席に着いて、どちらもコーヒーを頼み、それを待つ間、さくらはぐったりと椅子にもたれていた。
「まったく…人間というのは脆弱で話にならんな」
そう悪態を吐いたエンディミオンだったが、その彼自身、表情にいつもの硬さがない。どこかホッとしているような、緩んだ表情だった。
もっとも、これまで彼のことをずっと見ていたさくらにしか分からないような微妙な違いだったが。
それでも確かに違っているのだ。
力なく背もたれに体を預けながら、しかしさくらはそんなエンディミオンを見て、ふわっと柔らかい笑みを浮かべていた。
「なにがおかしい…?」
それに気付いたエンディミオンが憮然とした表情で問い掛ける。
「ううん…ただ、私のところに来たのがあなたでよかったなって思ってね……」
呟くようにそう言ったさくらの表情は、どこかけだるい色香も感じさせるものだった。
『あなたでよかった』
これは、さくらの正直な気持ちだっただろう。もちろん、こんなことに巻き込まれたのは望むところではなかったものの、少なくとも彼以外のバンパイアハンターだったら自分は今頃この世にはいなかっただろうし、それに何より、この不思議な気持ちを味わうこともなかっただろうから。
そうだ。さくらは今、何とも言えない満ち足りた気持ちだった。
『戦わないで』
と言った自分の言葉を彼がちゃんと聞き入れてくれたことが嬉しかった。
確かに、彼が現れなければそもそも必要のないことだったし、<静かな戦い>は行ってたのだから完全に聞いてもらえたとは言い難いにせよ、結果としては誰も命を落としたり大きな怪我をすることもなかったのだから、それで十分だった。
何でもかんでも自分の思い通りになるなどとは彼女は思っていない。自分の望まないことであっても、最悪の事態さえ避けられればそれでいいと考えられるのも彼女の特徴だった。
何もかも自分の思い通りにならなければ気が済まないというのが許されるのは、幼い子供のうちだけだろう。この世には、そんなムシのいい話は転がってはない。
たとえそれが、創作の中であってもだ。
完全に自分の思い通りになるのは、おそらく自分でそれを描いた場合のみだろう。他人が作った創作が自分の思い通りになることは、それが他人の手によるものである限り、自分以外の人間が作ったものである限り、自分の望みと百パーセント一致するということはまずないのである。
さくらは、創作に携わる仕事をしているからこそそれを知っていた。知っていたが故に、思いがけず自分の望みが叶えられた時には素直に喜べるのだった。
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