クセの強い喪女作家のショタ吸血鬼育成日記

京衛武百十

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エンディミオンの章

暗闇に潜む者

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ミハエルの言う吸血衝動が高まる満月の夜まであと三日。

しかし二人の生活ぶりは特に何も変わるところがなく、穏やかで淡々としたものだった。

だがそんな二人とはまったく別のところで、新たな出逢いがあった。



その日、月城さくらは担当している作家、蒼井霧雨の原稿のチェックを終えてようやく帰宅の途に就いたところだった。

『はあ……相変わらず好き勝手書いてるんだから……あのままじゃ使えませんよ、先生』

口には出さずにそうぼやきながら、最終電車に間に合わせようと早足で歩いていた彼女は、ふと何かの気配に気付いて背後を窺った。

『誰か、ついてきてる……? ああでも……』

たまたま歩く方向が同じだけの無関係な人を、つい『尾行してる?』と思ってしまいがちなのはよくあることだろう。

さくら自身も、そういうことは何度もあった。だから今回もそれだろうと自分でも思った。

だが、誰もいない。

『気のせい……かな……?』

そう思い再び正面に向き直って歩き出そうとした時、

「おい、お前……!」

不意にそう声を掛けられて、体がビクンと跳び上がりそうなほど跳ねてしまった。

「…な……っ?」

心臓がドコドコとやかましいほどに激しくなる中、声のした方に視線を向けた暗がりの中に、人影が映る。

「あ…え…? 子供……?」

子供だった。いや、『子供に見えた』と言うべきか。小柄で、華奢で、それでいて不思議な力感を見る者に与えるシルエット。

どこか、野生の獣のようにさえ思える<それ>は、街灯の光が十分に届かない暗闇の中から彼女を見ていた。まさに獣のそれのように、爛々と光る眼で。

「お前、臭うな……」

「え? 臭うって……」

『臭う』と言われて彼女は思わず自分の腕を顔に近付けて臭いを嗅いでしまった。昨日も風呂には入ったものの、何だかんだと汗もかいたし、それが臭うのかと思ってしまったのだ。

しかし、<人影>はそんな彼女に向かって言い放つ。

「違う…! お前、最近、吸血鬼に会っただろう? 微かだが吸血鬼の臭いがする。移り香だ。お前の周りにいる人間の誰かが、吸血鬼に憑かれたな…?」

「は…はい……?」

何を言われているのかすぐには理解できず、呆然となる。するとその<人影>は察しの悪い彼女に苛立ったように、

「鈍い奴だ…! いや、魅了の力で認識を書き換えられたか……?」

などと呟きながら、右手を胸の前に掲げ、指先で空中に円を描くように動かし、さらに虚空に描いた円を切り裂くように手を鋭く振り下ろした。

その瞬間、

「……あ…?」

と、さくらは何かに気付いたようにハッとなったのだった。

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