絵里奈の独白

京衛武百十

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アスリートじゃない

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星谷ひかりたにさんを見ると、石生蔵いそくらさんっていう女の子がやっぱり抱きついてた。本当に姉妹みたいにも見える。

だけど、石生蔵さんにはお母さんもお姉さんもいるそうなのに、そういう人達の姿はまったくなかった。私の小学校の頃と同じように……。

石生蔵さんのことも、山下さんが説明してくれた。大希ひろきくんの家庭教師をしていた星谷さんが、大希くんと石生蔵さんとの間で何かトラブルがあった時に動いたことをきっかけに石生蔵さんに懐かれたらしいって。

それ以来、実のお姉さんみたいに慕ってるんだって。

そんなことを思ってると、沙奈子ちゃん達が袋から何か取り出し始めるのが見えた。そのままそれを羽織る子もいて、青い、法被はっぴみたいな衣装だと分かった。普通に法被としてみるとすごく丈が長くて、膝までくらいあるけど。ダンスの為の衣装だってピンときた。

沙奈子ちゃんもその衣装を羽織り、頭にも青い鉢巻をしようとしたけど上手く巻けなかったから私が手伝ってあげた。

「似合ってるよ、沙奈子」

法被を羽織り鉢巻きを締めた彼女に、山下さんがそう声を掛ける。照れくさそうに微笑む沙奈子ちゃんがまた可愛くて、胸がキュンってなってしまった。そんな私の隣で、玲那はパシャパシャと彼女の写真を撮ってる。

担任の先生が呼びに来て、沙奈子ちゃん達は移動を始めた。

「行ってらっしゃい」

私と玲那と山下さんで声を揃えて手を振って見送った。大希くんや石生蔵さんと一緒に駆けていく彼女の後姿を見てると、いよいよダンスなんだなって、私の方が何だかドキドキしてきた。

「沙奈子ちゃん、ぜんぜん緊張してませんでしたね」

思わず彼にそんな風に声を掛けてしまう。そう、私は緊張してきちゃったのに、沙奈子ちゃんにはそんな様子がまるで見られなかったから。

その私に、山下さんは穏やかに応えてくれた。

「うん。きっと運動会なんて、目を吊り上げて必死になってやる必要なんてないんだって思う。こうやってみんなで楽しめたらそれでいいんじゃないかな。だってあの子達は別にアスリートじゃないんだから」

なるほどと思った。

確かに、学校の運動会って、アスリートの競技大会じゃない。目を吊り上げて勝負や記録に拘るようなものじゃない。それなのに変にムキになってたりしたからその反動で、一時期、『手を繋いでみんなで一斉にゴールする』とか訳の分からないやり方をする学校が出てきてしまったりしたのかも。

運動会なんて、学校時代の思い出の一コマになればいいんだよ。その中で勝って喜んで負けて悔しがってでいいと思う。

山下さんってその辺の感性もすごく合うって感じたのだった。

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