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私、死んじゃうのかな……

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『私、死んじゃうのかな……』

耳に違和感があるだけで体そのものはまったく辛くもないのにイティラはそんなことを考えて落ち込んでいた。

だからこそウルイは彼女を労わった。不安に囚われている彼女を放っておいたりしなかった。

山菜だけはまだ十分にあるのでそれをたっぷりと入れ、そこに干し肉と塩を足しただけの相変わらずの鍋だったがそれを用意すると、起き上がる分には何ともないイティラも体を起こして自分で食べた。

そうして彼女の看病をしながら、ウルイは、

『あいつらはこんなことしてくれなかったな……』

と自分の幼かった頃を思い出していた。看病してくれるどころか、

「さっさと仕事に行け!」

などと怒鳴って家から追い出された。

本当に、あれはいったい、何だったんだろうと思う。

意味が分からない。

つくづく自分達の酒代や遊興費を得るためだけに子供を作ったのだと実感する。

自分が親をはじめとした大人達に対して憤っていたものを冷静に振り返り、どうすれば同じ轍を踏まずに済むかを考えた。

もっとも、そこで何かヒントになるものがなければ、ただ『逆のことをすればいい』的に考えてしまい、結局、イティラが望んでもいないことを一方的に押し付けることになり、結果として自分が憎んでいた大人達と同じことしてしまっていたかもしれない。

だから、キトゥハと出逢えたことは本当に幸運だっただろう。彼の、

『相手を敬う』

という姿勢を学べたからこそ、ただ一方的に押し付けるのではなく、相手をよく見てどういう心理状態にあるかを察し、その上で<提案>という形でこちらの意図を伝えるのを心掛けることができた。

相手を<ただの子供>と侮らず見下さず自分と同じく心を持つ<他者>として接することを心掛けた。

それがイティラを安心させる。自分が家畜や道具ではないことを実感させてくれる。その上で、こうして病気を患って迷惑を掛けたのに変わらず労わってくれる。

涙が出そうになるくらい嬉しい。

『ウルイに出逢えて本当に良かった……』

いつも通り愛想もない陰鬱な表情で自分と一緒に食事を摂る彼を見て、イティラは『死ぬかもしれない』という不安が和らいでいくのを感じた。

ウルイも、極力、これまで通りに接することを決めていた。

もしものことがあるとしても、それはイティラの所為ではない。彼女は正直に異変を教えてくれた。だから自分も大事を取って彼女を休ませた。それにも彼女は素直に従ってくれた。これで駄目だったら、それはもう<運>としか言いようのないものだろう。

となれば、後は、せめて彼女の不安を少しでも和らげてやりたい。

そんな二人の時間が、ゆったりと流れていたのだった。

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