上 下
105 / 115
新世界の章

研究施設

しおりを挟む
博士の<研究施設>は、相変わらずだった。私がいた頃に比べると建物も増えてるけど、それも結局、仮設のプレハブに毛が生えた程度のもので、体裁とかに拘らない博士らしさはそのままだと思った。

「なんか、ぜんぜん変わったっていう印象がないね」

リリア・ツヴァイの言ったことが端的にそれを表してる。

ワゴンから降りた私達を、さらりとした銀髪を腰まで垂らした思いっ切り<モデル体型>のメイトギアと、クロヒョウを思わせるアームドエージェント(純戦闘用の軍用ロボット)が迎えてくれた。

博士の警護担当兼助手のリルフィーナ(フィーナQ3-Ver.2002)と、グロリアス(グローネンKS6)だった。

「おかえりなさい。リリアテレサ、リリア・ツヴァイ」

話し掛ける彼女に私達も、

「ただいま。メンテナンスを受けに来ました」

「私は博士の顔見に~♡」

と、それぞれ返す。

当然と言えば当然なんだろうけど、リルフィーナのツンとした雰囲気は、以前と何も変わってなかった。ずっと博士の傍に仕えてたから、変わる必要がなかったんだろう。

それに比べて私は、外見はともかくその振る舞いはたぶん、面影すら殆ど残ってないように思う。

こんな私を、博士はどう思うだろうか?

博士の好みに合わせて違法改造ぎりぎりまでカスタマイズしたのがすっかり<普通>になっちゃって、がっかりするだろうか?

そう思うと、ますますメインフレームに負荷が掛かるのを感じる。

人間はきっとこういうのを『怖い』って言うんだろうな。そうだ。私は『怖い』んだ。変わってしまった私を博士がどう思うかが、怖いんだ。

以前にも言ったとおり、厳密には<アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士>は亡くなっている。今いるのは、博士の記憶や意識を再現してるだけのロボットみたいなものだ。だから私は、博士の下を去ることができた。彼女はもう、<アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士本人>じゃないから。

なのに、今から会うのは博士本人じゃない筈なのに、私は『怖い』んだ。

まるで人間みたいに怖がってる。

博士にがっかりされるのを怖がってる。

好きな人を落胆させたくないって考えてる人間みたいに。

<心>はない筈なのに。

でも、リリア・ツヴァイの肉体を通じて、人間の体がこういう時どう反応するのかを知ってしまった私は、人間の<心>というものの成り立ちの一部も知ってしまった。知ってしまった以上はもう知らなかった頃には戻れない。ロボットだからデータを消去してしまえば簡単に戻れるけど、戻りたいとは思わない。

そして私達は、リルフィーナに導かれて、博士の自室へとやってきたのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

婚約破棄ですって!?ふざけるのもいい加減にしてください!!!

ラララキヲ
ファンタジー
学園の卒業パーティで突然婚約破棄を宣言しだした婚約者にアリーゼは………。 ◇初投稿です。 ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。 ◇なろうにも上げてます。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...