68 / 115
ふたりの章
何になろうと
しおりを挟む
リリア・ツヴァイとの旅は、淡々と続いていた。その間、私は自分が変わっていくのを感じてた。
最初は、アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士によって行われたカスタマイズ通りだったのに、博士を喪って野良ロボットになって、そのカスタマイズを維持する理由がなくなってしまったことで、必要のない反応をしなくなっていったんだ。
ただ、その代わり、リリア・ツヴァイとの<会話>でのやり取りは劇的に増えていった。
「今日はどこまで歩く?」
私が問い掛けるとリリア・ツヴァイは、
「ごめん、今日は足が痛いし乗せてって」
と、早々に私が引くリアカーの荷台に乗ってしまった。
足が痛いとかお腹が痛いとか、人間の体というのは本当に不便だ。不調があってもメンテナンスを受ければすぐに回復する私達とは違う。
でも、だからこそ<人間>なんだろうな。
「ね~、私達、ずいぶん人間っぽくなったと思わない?」
唐突に、リアカーの荷台に寝転がったリリア・ツヴァイがそんなことを訊いてくる。
「そうかもしれないが、だからどうしたというんだ。いくら人間っぽくなっても私達は人間じゃない」
私は敢えて冷淡にそう応える。
最近は、私自身の中で直接、彼女の<思考>とやり取りすることもしなくなってた。こうやって<会話>し、あくまで<別の個体>として振る舞う。
「そりゃどうもしないけどさ、<変化する>っていうのは、案外、悪くないよね」
「…そうだな。私達ロボットは本来、変化というものを避ける傾向にある。変化は変調であり、芳しくない兆候として認識されるからな」
「故障とか、劣化とかね」
「ああ。学習によって、データの蓄積によってより繊細に綿密に対応するようにはなっても、本質的には変わらない。それが私達ロボットだ」
「でも、私達はそこが変わっちゃったかもね~」
「かもしれん」
「だけど、リリアテレサはそれを嫌だと思う?」
「嫌かそうでないかという価値基準をロボットは持たない。だが、<好ましくない状態>だとは、確かに認識できないな」
「そうだね。それが『嫌じゃない』ってことなんじゃないかな」
「…お前の言う通りだな……」
最近では、こんなやり取りが増えた。これとほぼ同じ内容を、既に百十三回繰り返している。それだけ同じことを繰り返せるという時点で私達がやはりロボットなのだという証左ではあるのだろうけれど、同時に、あまり建設的とは思えない冗長なやり取りを行うということが『ロボットらしくない』とも言える。
本当に、私達は<何>なんだろうな。
私達は、何になろうとしてるんだろう。
最初は、アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士によって行われたカスタマイズ通りだったのに、博士を喪って野良ロボットになって、そのカスタマイズを維持する理由がなくなってしまったことで、必要のない反応をしなくなっていったんだ。
ただ、その代わり、リリア・ツヴァイとの<会話>でのやり取りは劇的に増えていった。
「今日はどこまで歩く?」
私が問い掛けるとリリア・ツヴァイは、
「ごめん、今日は足が痛いし乗せてって」
と、早々に私が引くリアカーの荷台に乗ってしまった。
足が痛いとかお腹が痛いとか、人間の体というのは本当に不便だ。不調があってもメンテナンスを受ければすぐに回復する私達とは違う。
でも、だからこそ<人間>なんだろうな。
「ね~、私達、ずいぶん人間っぽくなったと思わない?」
唐突に、リアカーの荷台に寝転がったリリア・ツヴァイがそんなことを訊いてくる。
「そうかもしれないが、だからどうしたというんだ。いくら人間っぽくなっても私達は人間じゃない」
私は敢えて冷淡にそう応える。
最近は、私自身の中で直接、彼女の<思考>とやり取りすることもしなくなってた。こうやって<会話>し、あくまで<別の個体>として振る舞う。
「そりゃどうもしないけどさ、<変化する>っていうのは、案外、悪くないよね」
「…そうだな。私達ロボットは本来、変化というものを避ける傾向にある。変化は変調であり、芳しくない兆候として認識されるからな」
「故障とか、劣化とかね」
「ああ。学習によって、データの蓄積によってより繊細に綿密に対応するようにはなっても、本質的には変わらない。それが私達ロボットだ」
「でも、私達はそこが変わっちゃったかもね~」
「かもしれん」
「だけど、リリアテレサはそれを嫌だと思う?」
「嫌かそうでないかという価値基準をロボットは持たない。だが、<好ましくない状態>だとは、確かに認識できないな」
「そうだね。それが『嫌じゃない』ってことなんじゃないかな」
「…お前の言う通りだな……」
最近では、こんなやり取りが増えた。これとほぼ同じ内容を、既に百十三回繰り返している。それだけ同じことを繰り返せるという時点で私達がやはりロボットなのだという証左ではあるのだろうけれど、同時に、あまり建設的とは思えない冗長なやり取りを行うということが『ロボットらしくない』とも言える。
本当に、私達は<何>なんだろうな。
私達は、何になろうとしてるんだろう。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
メルシュ博士のマッドな情熱
京衛武百十
SF
偽生症(Counterfeit Life Syndrome)=CLSと名付けられた未知の病により死の星と化した惑星リヴィアターネに、一人の科学者が現れた。一切の防護措置も施さず生身で現れたその科学者はたちまちCLSに感染、死亡した。しかしそれは、その科学者自身による実験の一環だったのである。
こうして、自らを機械の体に移し替えた狂気の科学者、アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士のマッドな情熱に溢れた異様な研究の日々が始まったのであった。
筆者より。
「死の惑星に安らぎを」に登場するマッドサイエンティスト、アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士サイドの物語です。倫理観などどこ吹く風という実験が行われます。ご注意ください。
死の惑星に安らぎを
京衛武百十
SF
惑星間航行技術を確立させて既に二千年。その活動範囲を銀河系全体へと広げていた人類は、多くの惑星を開拓、開発し、人間が居住可能な環境へと作り変え、次々と移住を行っていた。
そんな中、<星歴>一九九六年に発見された惑星リヴィアターネは、人類に大きな衝撃を与えた。なにしろそれは、何も手を付けなくてもほぼ地球と同じ環境であったのみならず、明らかに人工物、いや、紛れもなく地球人類以外の手による住居跡が遺跡として残されていたのである。
文明レベルとしては精々西暦一〇〇〇年前後頃の地球程度と推測されたが、初めて明確な形で確認された地球人類以外の知的生命体の痕跡に、発見当時は大いに盛り上がりも見せたのだった。
綿密な調査が行われ、大規模な惑星改造の必要もなく即移住可能であることが改めて確認され、また遺跡がある意味では観光資源になるとも期待されたが故に移住希望者が殺到。かつてない規模での移住が開始されることとなった。
惑星リヴィアターネは急速に開発が進み各地に都市が形成され、まさに本当に意味での<第二の地球>ともてはやされたのだった。
<あれ>が発生するまでは……。
人類史上未曽有の大惨事により死の惑星と化したリヴィアターネに、一体のロボットが廃棄されるところからこの物語は始まることとなる。
それは、人間の身の回りの世話をする為に作られた、メイドを模したロボット、メイトギアであった。あまりに旧式化した為に買い手も付かなくなったロボットを再利用した任務を果たす為に、彼女らはここに捨てられたのである。
筆者より
なろうで連載していたものをこちらにも掲載します。
なお、この物語は基本、バッドエンドメインです。そういうのが苦手な方はご注意ください。
クラウンクレイド零和
茶竹抹茶竹
SF
「私達はそれを魔法と呼んだ」
学校を襲うゾンビの群れ! 突然のゾンビパンデミックに逃げ惑う女子高生の祷は、生き残りをかけてゾンビと戦う事を決意する。そんな彼女の手にはあるのは、異能の力だった。
先の読めない展開と張り巡らされた伏線、全ての謎をあなたは解けるか。異能力xゾンビ小説が此処に開幕!。
※死、流血等のグロテスクな描写・過激ではない性的描写・肉体の腐敗等の嫌悪感を抱かせる描写・等を含みます。
【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~
次元謄一
ファンタジー
タイトル変更しました→旧タイトル 「デッドエンドキングダム ~十五歳の魔剣使いは辺境から異世界統一を目指します~」
前世の記憶を持って生まれたオスカーは国王の落とし子だった。父の死によって十五歳で北の辺境王国の統治者になったオスカーは、炎を操る魔剣、現代日本の記憶、そしてなぜか生まれながらに持っていた【千里眼】の能力を駆使し、魔物の森や有翼人の国などを攻略していく。国内では水車を利用した温泉システム、再現可能な前世の料理、温室による農業、畜産業の発展、透視能力で地下鉱脈を探したりして文明改革を進めていく。
軍を使って周辺国を併合して、大臣たちと国内を豊かにし、夜はメイド達とムフフな毎日。
しかし、大陸中央では至る所で戦争が起こり、戦火は北までゆっくりと、確実に伸びてきていた。加えて感染するとグールになってしまう魔物も至る所で発生し……!?
雷を操るツンデレ娘魔人、氷を操るクール系女魔人、古代文明の殺戮機械人(女)など、可愛いけど危険な仲間と共に、戦乱の世を駆け抜ける!
登場人物が多いので結構サクサク進みます。気軽に読んで頂ければ幸いです。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
Catastrophe
アタラクシア
ホラー
ある日世界は終わった――。
「俺が桃を助けるんだ。桃が幸せな世界を作るんだ。その世界にゾンビはいない。その世界には化け物はいない。――その世界にお前はいない」
アーチェリー部に所属しているただの高校生の「如月 楓夜」は自分の彼女である「蒼木 桃」を見つけるために終末世界を奔走する。
陸上自衛隊の父を持つ「山ノ井 花音」は
親友の「坂見 彩」と共に謎の少女を追って終末世界を探索する。
ミリタリーマニアの「三谷 直久」は同じくミリタリーマニアの「齋藤 和真」と共にバイオハザードが起こるのを近くで目の当たりにすることになる。
家族関係が上手くいっていない「浅井 理沙」は攫われた弟を助けるために終末世界を生き抜くことになる。
4つの物語がクロスオーバーする時、全ての真実は語られる――。
ゾンビ転生〜パンデミック〜
不死隊見習い
ファンタジー
異世界に転移したのはゾンビだった。
1000年の歴史を持つラウム王国。その首都ガラクシアで暮らす若き兵士ポラリスは英雄になることを夢見ていた。平和なガラクシアを侵食する邪な気配。“それ”は人を襲い“それ”は人を喰らい“それ”は人から為る。
果たしてポラリスは人々守り、英雄となれるのだろうか。これは絶望に打ち勝つ物語。
※この作品は「ノベルアップ+」様、「小説家になろう」様でも掲載しています。
※無事、完結いたしました!!(2020/04/29)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる