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リリア・ツヴァイの章

潜む者

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ロボットであるリリアテレサにとっては、人間がこうして海や湖で泳いだりするのが理解できない行動だった。人間がそういうことをするというのはもちろん分かっているし、それに対して異を唱えるなんてことはもちろんしない。でも、だからと言ってそれが理解できるかという話になればそうじゃないっていうことだ。

でも、私は厳密には人間じゃないのに、こうして泳いでみるとそれが気持ち良くて、だから人間は水と戯れたくなるんだなっていうのが実感できてしまった。合理性とかそういう問題じゃなく、感覚的にそうなんだ。

もちろんそれは人間の脳が感じてることなんだろうけど、そう感じるには肉体の感覚が必要なんだなっていうのが分かったってことかな。

う~ん、人間の体って神秘だな。

なんてことを考えてる時、

「ツヴァイ!、早く上がれ!!」

って声を掛けられた。それが何故なのか、私にも分かった。湖面が小さく盛り上がるようにして何かが近付いてきたんだ。

「ヤバいヤバい!」

私も慌てて上がる。するとモーリスも危険を感じたのか自ら離れた。そんな私達の目の前で、ほとんど陸地にまで上がってくるようにして影が見えた。大型犬くらいの大きさの、茶褐色で滑らかな質感の体をした動物だった。

「湖アシカか…」

<湖アシカ>っていうのは、このリヴィアターネに元々生息していた水棲生物だった。もちろん、地球のアシカとは生物的には何の繋がりもないものだけど、姿としては完全にアシカのそれだった。ネズミ以上の大きさの脳を持つ動物には陸棲・水棲を問わず感染するCLSが人間によって再び呼び覚まされるまでの間に動物達もそれなりに大型化し、以前に見た鹿やこの湖アシカくらいの大きさの動物も生息してたんだ。もっとも、人間が入植して餌を与えたりしたことで急速に大型化したというのもあるけどね。

その湖アシカのCLS患畜だ。いや、野生なんだから患獣かな?。まあどっちでもいいけどとにかくそういう感じってこと。CLSは水棲生物でも関係なく感染するから。

ご多聞に漏れずCLSに感染してることで動きが鈍くなってるから逃げ切れた。

ただ、CLSに感染した水棲生物が今日まで残ってたというのは意外だったな。陸上にはCLSに感染して動きが緩慢になった生き物でも捕食できる例の虫みたいのがいるから何とかなるにしても、水中の場合は、脳が小さいことでCLSを発症しない魚は当然動きが速くて捕まえられないし、貝や殆ど動いてるかどうかもよく分からない軟体動物を餌とは認識できない筈だから。

と思ったら、この湖にはいたんだった。動きは遅いけど明らかに動いてるように見える生き物が。

それは、<幽霊クラゲ>って呼ばれてる、クラゲに似た生き物だった。と言っても生き物の成り立ちとしてはむしろナマコとかウミウシに近いものらしいけど、クラゲと同じように水中を漂う姿がクラゲに似てる、でも何となく白くてゆらゆら動く体が幽霊っぽくもあるということで、<幽霊クラゲ>と名付けられたらしい。

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