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リリアテレサの章

どちらが先に

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博士にしてみれば、本当に些細な、ただの何気ない思い付きからのものだった。人間の体そのものが必要ならクローンを作れば簡単なのに、博士は、<動く死体>の体を極力人間のそれに近付けようと実験を行ったんだ。

動物を動く死体に変えてしまうウイルス(らしきもの)によって変化させられてしまった人間の各臓器を正常なものに置き換えることでどこまで人間に近付けられるか?という、おそらく意味も意義もないただの興味本位の実験だった。

リリア・ツヴァイはその為の被検体だった。しかし有意な成果を得られず、途中で飽きてしまって中途半端なままで放っておかれたという。

別にそれを恨んではいない。どうせいつものことだから。博士はそういう人だったし、そういう博士だから私は付き従っていたのだから。

ただそのことによって、より一層、人間の感覚を味わうことになってしまったのも事実だった。トイレに行きたくなった時のあの切ない感じとか。

本当に要らない、知る必要もない感覚だった。人間の傍で人間の身の回りのサポートをしていた頃ならまだ意味はあったかもしれないけれど。

でもそれさえ今更だ。彼女がいつまで生きるかは分からないけれど、それを確認するのも博士の目的の一つだったな。他に被検体はたくさんいるから彼女一人いなくなっても関係ないし。

博士は本当に何がしたかったのだろう。ロボットである私には当然のことだけど理解できない。それなのに、人間の感覚だけは次々と学ばされる。

思えばそれ自体が博士の実験だったのか……

墓の前で手を合わせた後、彼女はコンビニの店舗に戻って食料と飲料水の補充及び医薬品の回収を行った。私はその間に充電スタンドで充電を行う。

ついでにバッテリーチェックも行う。状態は良好だった。概算でもあと百年はこのまま問題なく使えると思う。

私のバッテリーが劣化し、機能が低下するのとリリア・ツヴァイの命が尽きるのとでは、どっちが早いだろうか。

もしバッテリーが劣化しきってしまえば、新しいバッテリーに交換しない限り、私はおそらく半日くらいしか動作できなくなってしまう。今はフル充電すれば一ヶ月は余裕でもつけれど。

もっとも、そうなる前に内部機構が破損して動けなくなるかもしれない。構造材の耐久性は千年単位といえど、部品単位で見れば耐用年数が来る前に故障する可能性だって無いとは言えない。

そういう意味でも、私とリリア・ツヴァイのどちらが先に動けなくなるかというのはあるんだろうか。

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