上 下
12 / 115
リリアテレサの章

日没

しおりを挟む
乾いた土埃の匂いに満たされた空気が、体にまとわりつくような湿気を帯びた土の匂いにすべて入れ替わった中、私はリリア・ツヴァイと共にまた道を歩き出した。

彼女の鼻でもこの匂いは感じ取れるのが分かる。

あと、気温は下がったからおそらく心配はないけれど、この湿度だと少し気温が上がれば熱中症に注意を払う必要が出てくるかもしれない。

けれど、その兆候もないまま、日が傾いてきた。気温も一気に下がってくる。もう熱中症の可能性もほぼなくなった。ペースを変えることなく私達は歩いた。

あれほどの雨だったのが嘘のように空には殆ど雲がなく、しかし太陽は真っ赤な炭火のようにゆっくりと地平線へと沈んでいった。

何もかもが赤く染まり、リリア・ツヴァイさえ真っ赤だった。同じように私の体も真っ赤だ。

「赤いね…」

ぽつりと彼女がそれだけを口にした。赤いなんて見れば分かる。それをなぜ口に出すのかが分からない。だけど、私達メイトギアは、本来、夕日を見た人間に『赤いね』と言われれば『そうですね』と応えるように作られている。人間が色の種類を問い掛けている訳じゃないことは分かるからだ。でも私達には、人間がどうしてそんなことを言葉にするのかが理解できないんだ。

でも、今は何となく分かるかもしれない。彼女は同意や共感さえ求めてない。ただただそれが口に出てしまっただけだ。そこに理屈なんかない。もっと詳細に解析すれば何らかの理屈で説明できるのかもしれないけど、それは大事なことじゃないんだろうな。ただ何となく胸の奥でまた何かが蠢いているような感覚がある。これは<寂寥感>と表現すればいいものだろうか。人間は夕日を見るとこんな反応があるということなのか。

もちろん毎回必ずそうなる訳じゃないことも分かってる。でもかなりの確率でこうなるという知識も与えられていた。

そして私も、

「うん、赤いね…」

と応えていたのだった。



完全に日が暮れてまた空が星で満ちる頃、彼女は歩き疲れてしまってリアカーに乗った。少し冷え込んできたから毛布を体に巻きつけて、ぼんやりと星を見てる。

彼女が眠ってしまった頃に次のモーテルに到着し、またそこで休むことにした。今度はあいつらは出てこなかった。覗いた部屋は綺麗なままだったから埃だけをモーテルに備えられてた掃除機で吸って彼女には先に眠ってもらって、私はまたメンテナンスルームで充電とメンテナンスを行った。もっとも、今回はまだ昨日メンテナンスしたところだったこともあって、ほぼ洗浄だけだったけど。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

処理中です...