上 下
10 / 115
リリアテレサの章

惨劇

しおりを挟む
土砂降りと言うのも生温いような、文字通り<滝のような雨>だった。バスの車体を激しい雨が叩く音に閉ざされた空間で、私とリリア・ツヴァイはただ雨が過ぎるのを待っていた。

まるで日没直後のように暗いけど、私のカメラにとっては特に問題はない。改めて車内を見回すと、ところどころに黒い跡がある。それが血痕であることは疑う余地もなかった。

人間を<動く死体>に変えてしまう病は、早ければ数十分、遅くとも数日中には発症し、死ぬ。死ねばすぐさま<動く死体>と化して、動いている生き物を無差別に襲い食らう。このバスの中でも、最終的には全員が発症した筈だけど、それには時間差があっただろうから、先に発症した者が、まだ発症していなかった者を襲ったのだろう。

その際にこの狭い空間の中で繰り広げられた光景は、人間が言うところの<地獄絵図>そのものだったに違いない。

もし、私がその場にいたとしたら、どうしただろうか?

実際、引率の教師のサポートとしてメイトギアが同乗していた可能性はある。そのメイトギアはかかる事態にどのように対処したのだろうか。

まずは、発症し苦痛を訴える人間を介抱しようとしたに違いない。最初の発症者がドライバーか児童か引率の教師かは分からないにしても、すぐさま対処しただろう。

けれどもそれは何の効果も発揮せず、しかも次々と発症し、処理能力を超えオーバーフローを起こしたかもしれない。しかし状況はさらに進み、死亡した人間が<動く死体>となって、発症前の人間達に襲い掛かった筈だ。もしメイトギアが動けていたのなら、発症前の人間を守ろうとした可能性はある。

ただ、その時点ではこの病の存在は知られていなかったから、人間としてのバイタルサインは検出できない<動く死体>をロボットはどのように判断するべきか、そこでも情報処理が混乱したことが窺える。死体が動くなど、本来は有り得ないのだから。

動いている以上は人間として見做したとすれば保護の対象になる。攻撃はできない。私があいつらを攻撃できるのは、その病を知っていて、発症者は人間じゃないことを知っているからだ。とすれば、動く死体と発症前の人間との間に立ち塞がって、自分が攻撃を受けた可能性がある。

あいつらは生きていた時のような無意識の力のセーブを行わないから、その体が発揮できるフルパワーでもって攻撃してくる。動きは緩慢だけど、力は強い。一般仕様のメイトギアにも匹敵する力を発揮する事例もある。

だけど、ここにはメイトギアの残骸はなかった。だから完全には破壊されなかったんだろうな。でも結局は全員発症し、餌と間違われて延々と襲われた筈のメイトギアは、何を思っていたんだろうか……

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

処理中です...