8 / 115
リリアテレサの章
存在の意味
しおりを挟む
翌朝、私がモーテルに備え付けられていた毛布数枚をリアカーに積み込んでる間にリリア・ツヴァイは朝食を食べて歯を磨いて服を着てってしてた。
今日もいい天気だ。足元を例のダンゴ虫に似た生き物がもそもそと歩いていく。正直、こういう生き物にとってこの惑星はとても生きやすいんだろうなとも思ってしまった。何しろ、彼らには、動物を<動く死体>に変えてしまう病気もまったく関係ないから。
餌にされることはあっても、彼らはそれをものともしないくらいに繁殖力が旺盛だ。だから他の生き物に捕食される程度のことは彼らにとっては想定の範囲内でしかないんだろう。そういうことも含めてその生態が出来上がってるんだと思う。
この惑星は本来、彼らのものだったのかもしれない。そこに無理に割り込んだことが人間の最大の失敗だったんだろうな。
とも思ってしまう。
「…行くか」
用意を済ませて私の横に立ったリリア・ツヴァイにそう声を掛けて、私達はまた歩き出した。東へ、東へと。道に沿って歩いていけば、だいたいなんとかなる。地図情報を見る限りは、この先にも、コンビニやモーテルは存在する。小さな集落もある。食料や水はまだ十分に残ってる。
だから私達は歩く。
地平線しか見えないような場所を、その光景を目に焼き付けながら。私達の目的は、この惑星をただ見て歩くこと。博士の最後の地となったこの惑星を。
他には何もない。
始まりはあるけど終わりはない。逆を言えば、どこで終わっても構わない。リリア・ツヴァイが死んで、私が壊れて動かなくなればそこで終わりでいい。そういう旅。
私に<命>はない。そして彼女のそれも所詮は<偽物の命>だ。それでも、形あるものはいつかそれを失う。その<いつか>を目指して、私達は歩いているのかもしれない。
宇宙には、どうして地球やこの惑星(ほし)のような惑星が存在するのだろう。
<生命>とは、どんな意味を持った存在なのだろう。
生命によって作り出された私達は、何の為に存在するのだろう。
主人を失い、本来の目的も失った私は、一体、なんなのだろう。
分からない。私は、そういうことの答えを導き出す為に作られた訳じゃないから。それは、人間達の役目だった。私のじゃない。
だったら今の私はそれこそなんなのだろう。合金とカーボン繊維とハイブリッド樹脂と化学物質と集積回路の集合体。それが、大した目的もなく延々と動き続けている。
不可解だ。とても不合理で不可解だ。
合理的に考えるなら私は今すぐ活動を停止するべきなのだ。
なのに、私はそれを選択できない。
そして私は、リリア・ツヴァイと共にただ歩き続けるのだった。
今日もいい天気だ。足元を例のダンゴ虫に似た生き物がもそもそと歩いていく。正直、こういう生き物にとってこの惑星はとても生きやすいんだろうなとも思ってしまった。何しろ、彼らには、動物を<動く死体>に変えてしまう病気もまったく関係ないから。
餌にされることはあっても、彼らはそれをものともしないくらいに繁殖力が旺盛だ。だから他の生き物に捕食される程度のことは彼らにとっては想定の範囲内でしかないんだろう。そういうことも含めてその生態が出来上がってるんだと思う。
この惑星は本来、彼らのものだったのかもしれない。そこに無理に割り込んだことが人間の最大の失敗だったんだろうな。
とも思ってしまう。
「…行くか」
用意を済ませて私の横に立ったリリア・ツヴァイにそう声を掛けて、私達はまた歩き出した。東へ、東へと。道に沿って歩いていけば、だいたいなんとかなる。地図情報を見る限りは、この先にも、コンビニやモーテルは存在する。小さな集落もある。食料や水はまだ十分に残ってる。
だから私達は歩く。
地平線しか見えないような場所を、その光景を目に焼き付けながら。私達の目的は、この惑星をただ見て歩くこと。博士の最後の地となったこの惑星を。
他には何もない。
始まりはあるけど終わりはない。逆を言えば、どこで終わっても構わない。リリア・ツヴァイが死んで、私が壊れて動かなくなればそこで終わりでいい。そういう旅。
私に<命>はない。そして彼女のそれも所詮は<偽物の命>だ。それでも、形あるものはいつかそれを失う。その<いつか>を目指して、私達は歩いているのかもしれない。
宇宙には、どうして地球やこの惑星(ほし)のような惑星が存在するのだろう。
<生命>とは、どんな意味を持った存在なのだろう。
生命によって作り出された私達は、何の為に存在するのだろう。
主人を失い、本来の目的も失った私は、一体、なんなのだろう。
分からない。私は、そういうことの答えを導き出す為に作られた訳じゃないから。それは、人間達の役目だった。私のじゃない。
だったら今の私はそれこそなんなのだろう。合金とカーボン繊維とハイブリッド樹脂と化学物質と集積回路の集合体。それが、大した目的もなく延々と動き続けている。
不可解だ。とても不合理で不可解だ。
合理的に考えるなら私は今すぐ活動を停止するべきなのだ。
なのに、私はそれを選択できない。
そして私は、リリア・ツヴァイと共にただ歩き続けるのだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる