4 / 115
リリアテレサの章
音
しおりを挟む
「寒い…」
明け方はさらに冷え込んで、私がヒーター代わりをしてるだけでは間に合わず、リリア・ツヴァイは寝ていられなかったようだった。住宅街があったところでは空き家に上がり込んでそこで暖をとれたけど、この辺りだとさすがにそうはいかないか。
まったく煩わしい。
博士がどうしてこんなことをしたのか、やはり私には理解できない。まあ、あの人のすることはいつでもそうだったけれど。
しかし今更どうすることもできないし、リリア・ツヴァイの寿命が尽きるまではこれで行くしかないのか。
どこかで毛布か何かを手に入れる必要があるだろうか。私と一緒に毛布にくるまればそれで間に合うだろう。この辺りの気候であれば。
私達は取り敢えず大陸を東に向かって横断するつもりだった。そこから先は北に向かうか南に向かうか、それはついてからの話だけど。
寒いので体を温める為にもリリア・ツヴァイは自分の足で歩きだした。エネルギーバーを摂取しながら。
しばらく歩いて体が温まってくると、周囲の光景を見渡す余裕もでてくる。と言っても、見るべきものは何もないただただ背の低い草が転々と生い茂っているだけの、ほぼ砂漠に近い平地だ。次の都市開発の計画に入っていたようだけど、今ではそれも遠い過去か。
私もリリア・ツヴァイも言葉もなくひたすら歩く。乾いた風が土埃の匂いを運んでくる。だが、この光景も千キロも歩けばまた変わってくる筈だ。この先には大きな湖があり、森林地帯になるから。
と言っても、今の調子では一ヶ月近くかかるかもしれない。さりとて、決められたスケジュールもない旅だから、急ぐ必要もない。
「疲れた…」
彼女がそう言うから、私はリリア・ツヴァイをリアカーに乗せて歩いた。
静かだ。
今、この惑星には、ネズミよりも大きい動物は殆どいない。ネズミより大きい動物はほぼ例外なく<動く死体>と化して、そして死んだ。だからものすごく静かだ。元よりこの辺りはネズミよりも小さな動物しかいないそうだから、光景そのものは以前と変わりないのだろうけど。
そこを、私はリアカーを引いてただ歩く。
シュ、シュ、と、私の筋線維アクチュエータの微かな駆動音と、私の脚が地面を踏みしめる時に砂がアスファルトの間でこすれるシャリシャリという音と、キシキシとリアカーがきしむ音と、リアカーのタイヤが路面を転がるテテテテという音以外は、時折吹き抜けていく風の音しかしない。まあ、私の聴覚センサーの感度を上げれば、リリア・ツヴァイの呼吸音や鼓動、血管の中を流れる血液の音や内臓が活動している音も聞こえるけどね。
でも、今はその必要もない。
だから私はただ歩き続けたのだった。
明け方はさらに冷え込んで、私がヒーター代わりをしてるだけでは間に合わず、リリア・ツヴァイは寝ていられなかったようだった。住宅街があったところでは空き家に上がり込んでそこで暖をとれたけど、この辺りだとさすがにそうはいかないか。
まったく煩わしい。
博士がどうしてこんなことをしたのか、やはり私には理解できない。まあ、あの人のすることはいつでもそうだったけれど。
しかし今更どうすることもできないし、リリア・ツヴァイの寿命が尽きるまではこれで行くしかないのか。
どこかで毛布か何かを手に入れる必要があるだろうか。私と一緒に毛布にくるまればそれで間に合うだろう。この辺りの気候であれば。
私達は取り敢えず大陸を東に向かって横断するつもりだった。そこから先は北に向かうか南に向かうか、それはついてからの話だけど。
寒いので体を温める為にもリリア・ツヴァイは自分の足で歩きだした。エネルギーバーを摂取しながら。
しばらく歩いて体が温まってくると、周囲の光景を見渡す余裕もでてくる。と言っても、見るべきものは何もないただただ背の低い草が転々と生い茂っているだけの、ほぼ砂漠に近い平地だ。次の都市開発の計画に入っていたようだけど、今ではそれも遠い過去か。
私もリリア・ツヴァイも言葉もなくひたすら歩く。乾いた風が土埃の匂いを運んでくる。だが、この光景も千キロも歩けばまた変わってくる筈だ。この先には大きな湖があり、森林地帯になるから。
と言っても、今の調子では一ヶ月近くかかるかもしれない。さりとて、決められたスケジュールもない旅だから、急ぐ必要もない。
「疲れた…」
彼女がそう言うから、私はリリア・ツヴァイをリアカーに乗せて歩いた。
静かだ。
今、この惑星には、ネズミよりも大きい動物は殆どいない。ネズミより大きい動物はほぼ例外なく<動く死体>と化して、そして死んだ。だからものすごく静かだ。元よりこの辺りはネズミよりも小さな動物しかいないそうだから、光景そのものは以前と変わりないのだろうけど。
そこを、私はリアカーを引いてただ歩く。
シュ、シュ、と、私の筋線維アクチュエータの微かな駆動音と、私の脚が地面を踏みしめる時に砂がアスファルトの間でこすれるシャリシャリという音と、キシキシとリアカーがきしむ音と、リアカーのタイヤが路面を転がるテテテテという音以外は、時折吹き抜けていく風の音しかしない。まあ、私の聴覚センサーの感度を上げれば、リリア・ツヴァイの呼吸音や鼓動、血管の中を流れる血液の音や内臓が活動している音も聞こえるけどね。
でも、今はその必要もない。
だから私はただ歩き続けたのだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
蓮華
釜瑪 秋摩
ファンタジー
小さな島国。 荒廃した大陸の四国はその豊かさを欲して幾度となく侵略を試みて来る。 国の平和を守るために戦う戦士たち、その一人は古より語られている伝承の血筋を受け継いだ一人だった。 守る思いの強さと迷い、悩み。揺れる感情の向かう先に待っていたのは――
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる