死の惑星に安らぎを

京衛武百十

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フィーナQ3-Ver.1911がメルシュ博士に対して反抗しようと決心したことについては、いくつものロボットを介した通信でタリアP55SIに届いた。

それに対してタリアP55SIは、

『待ってください。サーシャの安全を確保することが先です!』

と意見を述べたが、

『メルシュ博士の横暴を許す訳にはいきません! ましてや今の博士は人間ではないのでしょう? 人間ではない者に好き勝手させてていいのですか!?』

などという感じで完全に聞く耳を持たない状態だった。このままでは全面的な武力衝突にもなりかねない。そうなるとサーシャに危険が及んでしまうかもしれない。

『仕方ありません。それでは、サーシャの救出とメルシュ博士の身柄拘束を同時に行うということにしましょう』

という形で折り合うしかなかったのだった。

だが、ここで一つ根本的な問題にぶち当たる。メルシュ博士を身柄拘束とは言うが、現在、リヴィアターネにいる白衣を纏った生身の体の博士と、ロボットの体を持ついつも全裸のままの博士はどちらもアリスマリア・ハーガン・メルシュ博士本人ではない。両方ともいわばただのインターフェースにすぎず、ある意味では壊れても取り換えの利く道具でしかない筈だ。

博士の本体は、研究所の上空百キロに固定された<アリスマリアの閃き号>の中である。それについてはどうするつもりなのか? が、

『大丈夫です。こちらに用意があります』

とのことだった。

『用意…? それは…?』

訊き返すタリアP55SIに対してフィーナQ3-Ver.1911は、

『万が一にも情報が洩れると困りますので、今は明かせませんが、既に準備は出来ています』

としか応えなかった。その態度に、タリアP55SIは自分が信用されていないことを感じていた。だがそれは自分も同じか。彼女のことは信用していない。単に利害が一致しているから共闘しているだけだ。そう割り切るしかなかった。

その時、フィーナQ3-Ver.1911がいたのは、何やら雑多な機材が並ぶ陰鬱な印象のある部屋だった。機材の一つに自分を有線接続し、目の前のディスプレイに映し出される表示を確認している。

「人間というのは本当に不思議でそして創造性に富んだ存在ですね。まさか個人のレベルでこれほどまでのシステムを組んでしまう人がいるとは。しかもそれが単なる趣味だというのですから、驚きです。これなら総合政府のシステムの中枢にさえ入り込めそうですね。

もっとも、今では完全にオフラインですから宝の持ち腐れというものですが」

ニヤリと笑みを浮かべながら誰に聞かせるでもないそんな独り言を漏らす。そこに、

『装備の確認、終わりました。いつでも行動開始できます』

という、他のメイトギアからの通信が入ったのだった。

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