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殺戮
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「ケイン…それが僕の名前だ」
時間は若干遡り、嵐の中連れ去られた日から一ヶ月ほど経った頃、少年はようやく呟くようにそう口にした。エレクシアYM10に姉を殺され連れ去られてからずっと、彼はふさぎ込んでいた。エレクシアYM10はそんな彼に食事と寝床を与えたが、逃げ出そうとすれば容赦なく捕えて連れ戻した。暴力こそ振るわれなかったものの、彼にとって彼女の存在そのものが脅しのようなものだった。
彼女は、そんな少年=ケインを連れたまま4WD車を駆り、放浪を続けた。だがある時、彼女は緑深い山の途中で車をとめ、
「ここを動くな」
と彼に命じ、荷台から大砲の如き大きさの銃を取り出してどこかへ行ってしまった。しばらくすると、ターン、ターンと離れたところで銃声がするのが聞こえた。それを聞いたケインは咄嗟に、
『かなり離れてる…今なら逃げられる…!』
と思い立ち、4WD車から抜け出して森の中を必死に逃げた。だが、一時間もしないうちに方向さえ分からなくなり、疲れ果ててその場に座り込んでしまった。
「…手間を掛けさせるな…」
動けなくなってからほんの数分で、彼の前に人影が現れた。エレクシアYM10だった。彼は真っ直ぐ遠ざかるように逃げたつもりだったが、実際には方向を見失いぐるりと回っただけで4WD車から三百メートルと離れていない場所にいたのだった。それではもう、エレクシアYM10のサーモカメラで簡単に見付かってしまって当然だ。
そんなことが何度もあり、彼は逃げても無駄だと諦めてしまったのである。
それにしても、ケインを一人車に残してエレクシアYM10はいったい何をしていたのだろうか?
それもすぐに分かった。彼を車に乗せて山道を十分ほど走ったところで、彼女は再び車を止めていた。そこは山間に作られた小さな集落だった。車から降りて周囲を見回すと、何体ものメイトギアが破壊されて倒れていた。しかしそのうちの一体はまだ完全に破壊されておらず、体を起こそうともがいている。メインフレームは無事だったのだろう。
しかしエレクシアYM10はそのメイトギアに歩み寄り、一言も発することなく、腹に空いた穴に拳銃の銃口を押し込んで引き金を引いた。直後、もがいていたメイトギアの動きが止まる。メインフレームが破壊されたのだ。
ケインは理解した。エレクシアYM10はこうやって、ロボット達を破壊して回っているのだと。
すると呆然と立ち尽くす彼の前に、家の陰から、よろよろと小さな人影が歩み出た。子供だった。おそらく五歳かそこらの少女だった。だがその少女は、彼に近付くことさえできずに、パンパンと乾いた音と共に地面に倒れ伏したのだった。
時間は若干遡り、嵐の中連れ去られた日から一ヶ月ほど経った頃、少年はようやく呟くようにそう口にした。エレクシアYM10に姉を殺され連れ去られてからずっと、彼はふさぎ込んでいた。エレクシアYM10はそんな彼に食事と寝床を与えたが、逃げ出そうとすれば容赦なく捕えて連れ戻した。暴力こそ振るわれなかったものの、彼にとって彼女の存在そのものが脅しのようなものだった。
彼女は、そんな少年=ケインを連れたまま4WD車を駆り、放浪を続けた。だがある時、彼女は緑深い山の途中で車をとめ、
「ここを動くな」
と彼に命じ、荷台から大砲の如き大きさの銃を取り出してどこかへ行ってしまった。しばらくすると、ターン、ターンと離れたところで銃声がするのが聞こえた。それを聞いたケインは咄嗟に、
『かなり離れてる…今なら逃げられる…!』
と思い立ち、4WD車から抜け出して森の中を必死に逃げた。だが、一時間もしないうちに方向さえ分からなくなり、疲れ果ててその場に座り込んでしまった。
「…手間を掛けさせるな…」
動けなくなってからほんの数分で、彼の前に人影が現れた。エレクシアYM10だった。彼は真っ直ぐ遠ざかるように逃げたつもりだったが、実際には方向を見失いぐるりと回っただけで4WD車から三百メートルと離れていない場所にいたのだった。それではもう、エレクシアYM10のサーモカメラで簡単に見付かってしまって当然だ。
そんなことが何度もあり、彼は逃げても無駄だと諦めてしまったのである。
それにしても、ケインを一人車に残してエレクシアYM10はいったい何をしていたのだろうか?
それもすぐに分かった。彼を車に乗せて山道を十分ほど走ったところで、彼女は再び車を止めていた。そこは山間に作られた小さな集落だった。車から降りて周囲を見回すと、何体ものメイトギアが破壊されて倒れていた。しかしそのうちの一体はまだ完全に破壊されておらず、体を起こそうともがいている。メインフレームは無事だったのだろう。
しかしエレクシアYM10はそのメイトギアに歩み寄り、一言も発することなく、腹に空いた穴に拳銃の銃口を押し込んで引き金を引いた。直後、もがいていたメイトギアの動きが止まる。メインフレームが破壊されたのだ。
ケインは理解した。エレクシアYM10はこうやって、ロボット達を破壊して回っているのだと。
すると呆然と立ち尽くす彼の前に、家の陰から、よろよろと小さな人影が歩み出た。子供だった。おそらく五歳かそこらの少女だった。だがその少女は、彼に近付くことさえできずに、パンパンと乾いた音と共に地面に倒れ伏したのだった。
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