死の惑星に安らぎを

京衛武百十

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デイジーFS505

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ウイルスに感染しても発症しない、不顕性感染者の存在はかねてから指摘されていた。だが、ワクチンすら存在しない現状では、その存在が確認されたとしてもリヴィアターネから出すことは絶対にできなかった。そんなことをすればリヴィアターネの二の舞になるのが確実だからである。

何しろ、ウイルスを死滅させる為には人間なら数秒で即死するレベルの放射線を浴びせるか、摂氏三百度以上の高温で数十秒焼くしかない以上、感染した人間を生かしたままウイルスを除去するのは不可能なのだ。また、人間の体内にウイルスが存在していなかったとしても、その体や持ち物や、その人間の移動に使った機器にほんの数個のウイルスが残っているだけでも感染が広がってしまう可能性が高い。

ウイルスや疫病に関する研究の第一人者であった人物の下で長年使われてきたデイジーFS505は、そういうことに詳しいメイトギアだった。だが彼女は、現在リヴィアターネにいる多くのロボットと違い、元々ここにいたのだった。しかしそれと同時に、彼女も買い替えによって不要になったメイトギアでもあった。

研究の為にリヴィアターネに入植した彼女の主人は研究については才能溢れる人物だったが、その一方で世俗には疎く、自分のところに出入りしている業者がどの程度きちんとしたものなのかということを考えることができる人物ではなかったことで、いい加減な業者のセールストークに乗せられて新しいメイトギアを購入し、彼女を引き取らせてしまったという訳だ。

以前住んでいた惑星ではマネジメントを担当してくれる優秀な人物がいたのでその人物が業者の選定もしてくれていたのだが、どうしても都合がつかずリヴィアターネには同行してもらえなかったのだった。

仕方なく見た目の印象だけで選んだその業者は、デイジーFS505が持っているかも知れない研究データを盗み出してそれを転売しようとまで目論んでいた。そして彼女から強引にデータを抽出しようとしたがデイジーFS505はそれを頑なに拒否。その所為で、彼女のメインフレームはズタズタだった。辛うじて日常的な行動はとれるものの、突然サスペンド状態に陥ったり勝手に再起動したり、数十分から数時間分の記憶が何の前触れもなく失われたりということが起こる、非常に不安定な状態だった。

その為、彼女は、一日の大半を寝て過ごしていた。と言ってもロボットなので人間のようにベッドで寝る訳ではない。椅子などに腰かけた状態でサスペンド状態になることを眠ると表現しているだけである。そしてソファーに腰かけて眠っている彼女の体に寄りかかるようにして、一人の少女が眠っていたのであった。

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