死の惑星に安らぎを

京衛武百十

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サディスト

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間違いなく十センチ以上の長さがある、殆ど針のようなヒールを頭に突き立てられたCLS患者は、しばらくもがくようにリリアJS605sの細い足に爪を立てていたが、一分と経たないうちに力尽きたのか動きを止めてしまったのだった。

それを、彼女は嘲るようにうっすらと笑みを浮かべながら見下ろしていた。

どうやら、かなり特殊な嗜好を持つオーナーの下でカスタマイズを受けたらしい。

彼女は後発の小規模ロボットメーカーの商品であり、大手メーカーと正面切って立ち向かっていっては生き残れないという判断の下、趣味性を前面に押し出しニッチなニーズに活路を見出そうと企画された、多機種少数生産のメイトギア達の一つだった。

一般的なメイトギアが二十歳前後の女性を意識してデザインされているのに対して彼女は明らかに幼く、それ自体が売りとなる層を狙って発売されたものであった。大手メーカーはどうしても企業イメージというものを意識せずにはいられないことからなかなかそこまで踏み切れないが、元より知名度も企業イメージも十分でない後発メーカーならではの開き直りが反映されたそれらは<マイノリティモデル>と呼ばれ、それなりの人気も博していた。

その中でも彼女、リリアJS605sは、特に異質な存在であっただろう。愛玩用という意味ではもっと割り切ったコンセプトで作られた、<ラブドール>と呼ばれる廉価で機能を絞った種類のロボットもあり、そちらには彼女のようなロボットも多数あったのだが、日常的な生活を支援する為に煩雑な作業もこなせるようにと高性能かつ高機能であるが故に高価なメイトギアにここまで趣味性を反映させるのは相当な冒険であったに違いない。

しかしそのおかげか発売当初は目標販売台数を大きく上回る好調なセールスを誇り、リリアJS605sとリリアJS605mの両モデル合わせてメーカーの屋台骨を支えたが、それを見た他の中小メーカーが同様のコンセプトのモデルを相次いで発売、人気が分散したことですぐに損益分岐点を下回り、彼女を作ったメーカーですら見限って後継機種を発表することなくこのタイプからは手を引いてしまったのだった。

しかもこの彼女の言動を見るに、元のオーナーの嗜好が推測されてしまうというものだ。なにしろ標準状態であればあくまでリリアJS605sは<ツンデレ>、リリアJS605mは<おしとやかで忍耐強い>というキャラクター付けをされているだけだったのだから。

まあ、元々、605sの<s>はサディスト。605mの<m>はマゾヒストを表しているというもっぱらの評判ではあったのだが。

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