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生まれきたる者

人間として間違っているとしても

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他人に上から目線で説教されて素直に反省する人間はむしろ少数派であることは、思い当たる節はないだろうか?

他人に正論を向けられるとかえって反発してしまう。

自分自身にもそういう経験はないだろうか?

もしそういう人間が滅多にいないのであれば、ネット上で他人を罵る行為を『マナー違反だ』と指摘されればほとんどはその場で反省し、態度を改めるのではないか?

しかし現実はそうではないはずである。自分の間違いを指摘されて素直に受け入れられることはむしろ例外的なことのはずだ。

そしてこう言うと、反論してくる者も少なくない。

それ自体が既に、

『現実はそうではない』

ことを物語っているのではないか?

にも拘らず、赤ん坊を生み捨てるような人間はとにかく上から目線で罵倒すればいいと考える人間も多い。

それに効果はほとんど望めないという現実を無視して。

そんな簡単なことで解決するのなら、人生はどんなにイージーモードだろうか。

『簡単ではない』という現実を認めることさえ簡単ではないというのに。

子供を生み捨てようとする人間を説得しようなどということ自体が、もとよりただの<綺麗事>に過ぎない。そんな説得が通用するほど理性的であればそもそも子供を生み捨てたりしない。

そして蓮華達の活動の第一義は、『子供の命を救う』こと。

子供を生み捨てようとする人間の説得は、二の次三の次なのだ。

そんなことをしようとしている間に子供の命は喪われてしまう危険性が高い。

もし説得するにしても、子供を保護してからだ。

だが今の制度ではそれは難しい。その現実があるからこその活動とも言える。

それに、『説得しようとしている』と思われるだけでも危険である。それを嫌って逃げてしまうことが多いからだ。

だから説得などしない。そんなことはおくびにも出さない。

自ら<子供を生む道具>に成り下がるというのなら、好きにすればいい。

もっとも、それさえ、決して本人には言わないが。

ただただ淡々と子供を受け取り、保護されるように手配するだけ。

そこに感情が入り込む余地はない。

人間は、負の感情を向けられるとそれを返してしまう傾向がある。

怒りを向けられると怒りを、

憎しみを向けられると憎しみを、

蔑みを向けられると蔑みを、

いわゆる上から目線の憐憫や同情心も、おそらく<負の感情>に含まれるだろう。だから反発してしまう。

悲しみや恐怖さえ、相手の嘲りや加虐性を誘発してしまうことがある。

故に余計なことは言わず感情も表に出さないことを心掛ける。

感情を出すのは安全が確保されてからでいい。

その姿勢が人間として間違っているとしても、それが間違っているという事実を認めた上で、蓮華達はそれを続けるのである。

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