232 / 283
回帰
ここにいれば大丈夫
しおりを挟む
『多くの人間が評価するものにこそ価値があり、多くの人間が批判的に見るものには価値がない』
この世にはそう考える人間も多いだろう。しかしそれは本当だろうか? 本当に、多くの人間が評価するものにしか価値はないのだろうか?
もしそれが事実なら、なぜ、<衆愚政治>や<ポリュリズム>という言葉があるのだろうか?
選挙で選ばれた政党が、
『この政党を選んだのは間違いだった!』
と評されたりするのはなぜだろうか?
それは、
『多くの人間が評価するもの=正しい、価値があるもの』
とは限らないからではないのか?
『多くの人間が支持するから正しい』
とは限らないからではないのか?
時には<常識>を疑う必要もあるのではないのか?
灯安良への対応を評価する人間は少ないかもしれない。しかし、必要なのは<多数からの評価>ではなく、<現実の効果>である。
少なくとも、現状、灯安良はここから逃げ出すことをしていない。
阿礼と共に家を出て数百キロ離れた地まで逃げてみせた彼女が、ただ部屋に閉じこもるだけで済んでいるのは、彼女に、
『逃げなければ!』
と思わせていないからである。
彼女にそこまで差し迫った危険を感じさないことに成功しているということに他ならない。
もうその時点で彼女の実の家庭とは違った状況を提供できているということだ。
こうして、一つ一つ、彼女に実感を与えていくのだ。
『ここにいれば大丈夫』
という結論に至れる材料を提供し、彼女自身がその判断ができるように。
すべてがそのための対応だった。
阿礼は、灯安良よりは早い段階でそれを察することができた。彼自身が聡い子供であったことも影響しているとは言え、その聡い彼に『ここなら大丈夫』と思わせることができたのだから、彼にとって安全かつ安心できる状況を作り出すことには成功している。
彼がその判断を下せたのは、久人の表情だった。
男の子でありながら女の子のような振る舞いをする彼が穏やかな表情でいられているというのが、ここの安全性を物語っていると彼は見抜くことができた。
『ここの大人達は、子供を見くびってない。子供を侮ってない。でも同時に、子供を怖がってもいない』
阿礼はそう感じ取っていた。
見くびっても侮っても怖がってもいないから、嘘を吐く必要がない。嘘で評価を粉飾する必要がない。それだけでももうすでに、彼がこれまで見てきた大人と大人が運営する組織とは違っていた。
だから彼はここに興味を抱き、ここの大人達を利用して灯安良を守ろうと考えることができた。
阿礼は、聡く、そして抜け目のない子供だった。非力であるからこそ大人を利用して生き延びてやろうという強かさも持ち合わせていた。
そんな彼に、
『ここは利用できる』
と判断させることができただけでも、大きな成功と言えるのだろう。
この世にはそう考える人間も多いだろう。しかしそれは本当だろうか? 本当に、多くの人間が評価するものにしか価値はないのだろうか?
もしそれが事実なら、なぜ、<衆愚政治>や<ポリュリズム>という言葉があるのだろうか?
選挙で選ばれた政党が、
『この政党を選んだのは間違いだった!』
と評されたりするのはなぜだろうか?
それは、
『多くの人間が評価するもの=正しい、価値があるもの』
とは限らないからではないのか?
『多くの人間が支持するから正しい』
とは限らないからではないのか?
時には<常識>を疑う必要もあるのではないのか?
灯安良への対応を評価する人間は少ないかもしれない。しかし、必要なのは<多数からの評価>ではなく、<現実の効果>である。
少なくとも、現状、灯安良はここから逃げ出すことをしていない。
阿礼と共に家を出て数百キロ離れた地まで逃げてみせた彼女が、ただ部屋に閉じこもるだけで済んでいるのは、彼女に、
『逃げなければ!』
と思わせていないからである。
彼女にそこまで差し迫った危険を感じさないことに成功しているということに他ならない。
もうその時点で彼女の実の家庭とは違った状況を提供できているということだ。
こうして、一つ一つ、彼女に実感を与えていくのだ。
『ここにいれば大丈夫』
という結論に至れる材料を提供し、彼女自身がその判断ができるように。
すべてがそのための対応だった。
阿礼は、灯安良よりは早い段階でそれを察することができた。彼自身が聡い子供であったことも影響しているとは言え、その聡い彼に『ここなら大丈夫』と思わせることができたのだから、彼にとって安全かつ安心できる状況を作り出すことには成功している。
彼がその判断を下せたのは、久人の表情だった。
男の子でありながら女の子のような振る舞いをする彼が穏やかな表情でいられているというのが、ここの安全性を物語っていると彼は見抜くことができた。
『ここの大人達は、子供を見くびってない。子供を侮ってない。でも同時に、子供を怖がってもいない』
阿礼はそう感じ取っていた。
見くびっても侮っても怖がってもいないから、嘘を吐く必要がない。嘘で評価を粉飾する必要がない。それだけでももうすでに、彼がこれまで見てきた大人と大人が運営する組織とは違っていた。
だから彼はここに興味を抱き、ここの大人達を利用して灯安良を守ろうと考えることができた。
阿礼は、聡く、そして抜け目のない子供だった。非力であるからこそ大人を利用して生き延びてやろうという強かさも持ち合わせていた。
そんな彼に、
『ここは利用できる』
と判断させることができただけでも、大きな成功と言えるのだろう。
0
あなたにおすすめの小説
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
悪役令嬢として断罪された聖女様は復讐する
青の雀
恋愛
公爵令嬢のマリアベルーナは、厳しい母の躾により、完ぺきな淑女として生まれ育つ。
両親は政略結婚で、父は母以外の女性を囲っていた。
母の死後1年も経たないうちに、その愛人を公爵家に入れ、同い年のリリアーヌが異母妹となった。
リリアーヌは、自分こそが公爵家の一人娘だと言わんばかりにわが物顔で振る舞いマリアベルーナに迷惑をかける。
マリアベルーナには、5歳の頃より婚約者がいて、第1王子のレオンハルト殿下も、次第にリリアーヌに魅了されてしまい、ついには婚約破棄されてしまう。
すべてを失ったマリアベルーナは悲しみのあまり、修道院へ自ら行く。
修道院で聖女様に覚醒して……
大慌てになるレオンハルトと公爵家の人々は、なんとかマリアベルーナに戻ってきてもらおうとあの手この手を画策するが
マリアベルーナを巡って、各国で戦争が起こるかもしれない
完ぺきな淑女の上に、完ぺきなボディライン、完ぺきなお妃教育を持った聖女様は、自由に羽ばたいていく
今回も短編です
誰と結ばれるかは、ご想像にお任せします♡
異国妃の宮廷漂流記
花雨宮琵
キャラ文芸
唯一の身内である祖母を失った公爵令嬢・ヘレナに持ち上がったのは、元敵国の皇太子・アルフォンスとの縁談。
夫となる人には、愛する女性と皇子がいるという。
いずれ離縁される“お飾りの皇太子妃”――そう冷笑されながら、ヘレナは宮廷という伏魔殿に足を踏み入れる。 冷徹と噂される皇太子とのすれ違い、宮中に渦巻く陰謀、そして胸の奥に残る初恋の記憶。
これは、居場所を持たないお転婆な花嫁が、自ら絆を紡ぎ、愛と仲間を得て”自分の居場所”を創りあげるまでの物語。ときに騒がしく、とびきり愛おしい――笑って泣ける、異国妃のサバイバル宮廷譚。最後はハッピーエンドです。
※本作は2年前にカクヨム、エブリスタに掲載していた物語『元敵国に嫁いだ皇太子妃は、初恋の彼に想いを馳せる』を大幅に改稿し、別作品として仕上げたものです。
© 花雨宮琵 2025 All Rights Reserved. 無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ワケあり公子は諦めない
豊口楽々亭
ファンタジー
精霊の加護により平和が守られている、エスメラルダ公国。
この国の公爵家の娘、ローゼリンド公女がある日行方不明になった。
大公子であるヘリオスとの婚約式を控えた妹のために、双子で瓜二つの兄である公子ジークヴァルトが身代わりになることに!?
妹になり代わったまま、幼馴染みのフロレンスと過ごすうち、彼女に惹かれていくジークヴァルト。
そんなある日、ローゼリンドが亡骸となって発見されて……───最愛の妹の死から始まる、死に戻りの物語!!
※なろう、カクヨムでも掲載しております。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる