生まれきたる者 ~要らない赤ちゃん引き取ります~

京衛武百十

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ここにいれば大丈夫

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『多くの人間が評価するものにこそ価値があり、多くの人間が批判的に見るものには価値がない』

この世にはそう考える人間も多いだろう。しかしそれは本当だろうか? 本当に、多くの人間が評価するものにしか価値はないのだろうか?

もしそれが事実なら、なぜ、<衆愚政治>や<ポリュリズム>という言葉があるのだろうか?

選挙で選ばれた政党が、

『この政党を選んだのは間違いだった!』

と評されたりするのはなぜだろうか?

それは、

『多くの人間が評価するもの=正しい、価値があるもの』

とは限らないからではないのか?

『多くの人間が支持するから正しい』

とは限らないからではないのか?

時には<常識>を疑う必要もあるのではないのか?

灯安良てぃあらへの対応を評価する人間は少ないかもしれない。しかし、必要なのは<多数からの評価>ではなく、<現実の効果>である。

少なくとも、現状、灯安良てぃあらはここから逃げ出すことをしていない。

阿礼あれいと共に家を出て数百キロ離れた地まで逃げてみせた彼女が、ただ部屋に閉じこもるだけで済んでいるのは、彼女に、

『逃げなければ!』

と思わせていないからである。

彼女にそこまで差し迫った危険を感じさないことに成功しているということに他ならない。

もうその時点で彼女の実の家庭とは違った状況を提供できているということだ。

こうして、一つ一つ、彼女に実感を与えていくのだ。

『ここにいれば大丈夫』

という結論に至れる材料を提供し、彼女自身がその判断ができるように。

すべてがそのための対応だった。

阿礼あれいは、灯安良てぃあらよりは早い段階でそれを察することができた。彼自身が聡い子供であったことも影響しているとは言え、その聡い彼に『ここなら大丈夫』と思わせることができたのだから、彼にとって安全かつ安心できる状況を作り出すことには成功している。

彼がその判断を下せたのは、久人の表情だった。

男の子でありながら女の子のような振る舞いをする彼が穏やかな表情でいられているというのが、ここの安全性を物語っていると彼は見抜くことができた。

『ここの大人達は、子供を見くびってない。子供を侮ってない。でも同時に、子供を怖がってもいない』

阿礼あれいはそう感じ取っていた。

見くびっても侮っても怖がってもいないから、嘘を吐く必要がない。嘘で評価を粉飾する必要がない。それだけでももうすでに、彼がこれまで見てきた大人と大人が運営する組織とは違っていた。

だから彼はここに興味を抱き、ここの大人達を利用して灯安良てぃあらを守ろうと考えることができた。

阿礼あれいは、聡く、そして抜け目のない子供だった。非力であるからこそ大人を利用して生き延びてやろうという強かさも持ち合わせていた。

そんな彼に、

『ここは利用できる』

と判断させることができただけでも、大きな成功と言えるのだろう。

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