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回帰
滑稽に見える
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「なにそれひさちゃん、へんなかっこう」
園児の一人が、抱っこ紐で米袋を腹に抱えている久人を見てクスクスと笑った。
「うん。でも、僕もお腹に赤ちゃんがいるのってどんな感じかなと思ってさ。真似してるんだ」
久人は丁寧にそう応えた。『笑われた』と逆上はしない。自分でも今の恰好が滑稽に見えることは自覚していた。けれどそれ以上に自分で確かめてみたかったのだ。
「ふ~ん」
声を掛けてきた園児は分かったような分からないような返事を返しただけで、
「しおちゃん、あそぼ♡」
他の園児に誘われて、
「うん、あそぼ♡」
と立ち去ってしまった。
「……」
そんな様子を、腹に抱えた米袋を手で支えながら、久人は笑顔で見送っていた。
夕食時。幼い園児達のために夕食の用意をする久人の姿があった。
まだ、お腹に米袋を抱えたままで。
「無理しなくていいよ」
辛そうに眉をしかめながら自分達を手伝ってくれる久人に、職員が声を掛けてくれる。
「いえ、まだ大丈夫です」
とは応えるものの、その表情は大丈夫そうには見えない。
そんな久人に、ベテランの職員が、
「頑張るのも大事だけど、それで体を壊したら元も子もないよ。逆に周りに迷惑を掛けることにもなる。休める時には休む。しなくていいことを無理して続けない。それも大事なんだよ」
そう言われて、ようやく。
「…はい、すいません……」
腰に着けていた抱っこ紐を解き、米袋を下ろした。その途端、
「はあ~っ!」
と大きな溜息が漏れた。たまらない開放感に腰が抜けたように椅子に座り込む。
そんな彼の様子に、職員達はクスクスと笑みを浮かべる。決して馬鹿にしてるわけじゃない。ただ微笑ましかっただけだ。
そして彼の努力に素直に心の中で敬意を払う。
「ちゃんとお風呂に入ってリラックスして体をほぐしなさい。腰痛はクセになるとホントに辛いから」
「は、はい……!」
改まる久人に、園児の一人が、
「ひさちゃん、こしいたい?」
と腰をさすってくれた。
その気遣いがたまらなく嬉しい。まだ小学校に上がる以前の幼児でさえ他人を気遣うということを知っている。
ここの大人達の姿を見て真似るからだ。
『子供は大人の姿を見ている』
もえぎ園ではそれを忘れないようにと徹底されている。
それを真似て、子供達も他人を気遣う。
大人達のそれが、上辺だけ、形だけのそれじゃないことを見抜いているが故に。
子供は非力で他人の庇護がないと生きていけないからこそ、自分の身近な人間をよく見る。見て、その本質を見抜こうとする。
だからこそ、もえぎ園は子供を侮らないのである。
園児の一人が、抱っこ紐で米袋を腹に抱えている久人を見てクスクスと笑った。
「うん。でも、僕もお腹に赤ちゃんがいるのってどんな感じかなと思ってさ。真似してるんだ」
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「ふ~ん」
声を掛けてきた園児は分かったような分からないような返事を返しただけで、
「しおちゃん、あそぼ♡」
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と立ち去ってしまった。
「……」
そんな様子を、腹に抱えた米袋を手で支えながら、久人は笑顔で見送っていた。
夕食時。幼い園児達のために夕食の用意をする久人の姿があった。
まだ、お腹に米袋を抱えたままで。
「無理しなくていいよ」
辛そうに眉をしかめながら自分達を手伝ってくれる久人に、職員が声を掛けてくれる。
「いえ、まだ大丈夫です」
とは応えるものの、その表情は大丈夫そうには見えない。
そんな久人に、ベテランの職員が、
「頑張るのも大事だけど、それで体を壊したら元も子もないよ。逆に周りに迷惑を掛けることにもなる。休める時には休む。しなくていいことを無理して続けない。それも大事なんだよ」
そう言われて、ようやく。
「…はい、すいません……」
腰に着けていた抱っこ紐を解き、米袋を下ろした。その途端、
「はあ~っ!」
と大きな溜息が漏れた。たまらない開放感に腰が抜けたように椅子に座り込む。
そんな彼の様子に、職員達はクスクスと笑みを浮かべる。決して馬鹿にしてるわけじゃない。ただ微笑ましかっただけだ。
そして彼の努力に素直に心の中で敬意を払う。
「ちゃんとお風呂に入ってリラックスして体をほぐしなさい。腰痛はクセになるとホントに辛いから」
「は、はい……!」
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「ひさちゃん、こしいたい?」
と腰をさすってくれた。
その気遣いがたまらなく嬉しい。まだ小学校に上がる以前の幼児でさえ他人を気遣うということを知っている。
ここの大人達の姿を見て真似るからだ。
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それを真似て、子供達も他人を気遣う。
大人達のそれが、上辺だけ、形だけのそれじゃないことを見抜いているが故に。
子供は非力で他人の庇護がないと生きていけないからこそ、自分の身近な人間をよく見る。見て、その本質を見抜こうとする。
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