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学び
手際
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もえぎ園は、灯安良と阿礼を<親>として育て上げるべく全面的にバックアップした。
自分の勝手な都合でこの世に送り出した子供に、
『生まれてきて良かった』
と思ってもらう為には、生半可なことでは済まない。済まないが、その責任は負わなくてはいけない。
もっとも、スパルタで叩き込む訳ではない。
徹底的に目の前でやってみせて、それを真似てもらうのである。
「見ててね、オムツはこうして替えるの」
灯安良が次の授乳のために仮眠をとっている間にも、阿礼にも学んでもらう。
父親だから子供の世話はしなくていいなどとは決して言わない。二人だけで育てていくつもりであったなら、家に大人は二人しかいないことになる。だから手分けしてするのがむしろ当然だし、その方が合理的というものだ。
灯安良と阿礼の場合は厳密には二人もまだ<子供>ではあるものの、親である以上は大人と同等の働きができるようになってもらわなければならない。
男性である阿礼にはさすがにおっぱいは出ないので無理なものの、ミルクやりもおむつ替えもお風呂もやってもらう。
ただし今の時点は、灯安良の方は出産時のダメージの回復に集中してもらうことになる。そうして体調を万全にして、今後に備えてもらうのだ。決して楽をさせてるわけではない。
いわば、
『休むことも仕事のうち』
ということだろう。
その間、阿礼の方に集中的に学んでもらう。
しかし、同時に小学生でもあるので、勉強も欠かさない。灯安良はまだしばらく休んでもらうものの、阿礼は灯安良の出産の時に休んだだけだ。
もえぎ園に保護されたことで元の学校からは転校したのだが、それは赤ん坊のことを秘密にするためでもある。
それによって学校では学業に専念してもらうことも目的だった。
そして、灯安良と阿礼だけでは手が及ばない部分を、もえぎ園の職員がカバーする。
あくまで育児の主体は灯安良と阿礼。
赤ん坊は二人の子供なのだから。
こうして、小学生の両親による子育てが始まった。
「え、と、これがこうなって、っとと、うわっ!」
慣れないおむつ替えに阿礼が手間取っていると、赤ん坊が、紗莉安が、おしっこをしてしまった。
「あ、うわ、紗莉安っ……!」
慌てた阿礼がなんとかおしっこをやめさせようとするものの、当然、止まるはずもない。
「こういうことはよくあるから、気にしない気にしない。また新しいおむつに替えればいいだけだよ」
若い女性職員が平然と言いながら、阿礼に代わっておしっこを拭き、手際よく新しいおむつに付け替えてみせた。
『僕はダメだなあ……』
あまりの手際の違いに、阿礼はがっくりと肩を落とす。
「ほらほら、落ち込んでる時間はないよ、お父さん。次はミルクだよ」
「は、はい……!」
応えつつ、阿礼はあわただしくミルクの用意を始めたのだった。
自分の勝手な都合でこの世に送り出した子供に、
『生まれてきて良かった』
と思ってもらう為には、生半可なことでは済まない。済まないが、その責任は負わなくてはいけない。
もっとも、スパルタで叩き込む訳ではない。
徹底的に目の前でやってみせて、それを真似てもらうのである。
「見ててね、オムツはこうして替えるの」
灯安良が次の授乳のために仮眠をとっている間にも、阿礼にも学んでもらう。
父親だから子供の世話はしなくていいなどとは決して言わない。二人だけで育てていくつもりであったなら、家に大人は二人しかいないことになる。だから手分けしてするのがむしろ当然だし、その方が合理的というものだ。
灯安良と阿礼の場合は厳密には二人もまだ<子供>ではあるものの、親である以上は大人と同等の働きができるようになってもらわなければならない。
男性である阿礼にはさすがにおっぱいは出ないので無理なものの、ミルクやりもおむつ替えもお風呂もやってもらう。
ただし今の時点は、灯安良の方は出産時のダメージの回復に集中してもらうことになる。そうして体調を万全にして、今後に備えてもらうのだ。決して楽をさせてるわけではない。
いわば、
『休むことも仕事のうち』
ということだろう。
その間、阿礼の方に集中的に学んでもらう。
しかし、同時に小学生でもあるので、勉強も欠かさない。灯安良はまだしばらく休んでもらうものの、阿礼は灯安良の出産の時に休んだだけだ。
もえぎ園に保護されたことで元の学校からは転校したのだが、それは赤ん坊のことを秘密にするためでもある。
それによって学校では学業に専念してもらうことも目的だった。
そして、灯安良と阿礼だけでは手が及ばない部分を、もえぎ園の職員がカバーする。
あくまで育児の主体は灯安良と阿礼。
赤ん坊は二人の子供なのだから。
こうして、小学生の両親による子育てが始まった。
「え、と、これがこうなって、っとと、うわっ!」
慣れないおむつ替えに阿礼が手間取っていると、赤ん坊が、紗莉安が、おしっこをしてしまった。
「あ、うわ、紗莉安っ……!」
慌てた阿礼がなんとかおしっこをやめさせようとするものの、当然、止まるはずもない。
「こういうことはよくあるから、気にしない気にしない。また新しいおむつに替えればいいだけだよ」
若い女性職員が平然と言いながら、阿礼に代わっておしっこを拭き、手際よく新しいおむつに付け替えてみせた。
『僕はダメだなあ……』
あまりの手際の違いに、阿礼はがっくりと肩を落とす。
「ほらほら、落ち込んでる時間はないよ、お父さん。次はミルクだよ」
「は、はい……!」
応えつつ、阿礼はあわただしくミルクの用意を始めたのだった。
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