182 / 283
学び
園児達
しおりを挟む
もえぎ園に迎えられた灯安良と阿礼だったが、さすがにすぐには馴染めなかった。いつも二人だけで寄り添い合い、他の園児達とは関わろうとしない。
しかしそれは普通のことなので、これ自体を案じる職員はもえぎ園にはいない。
むしろそこに保護されている<園児>が二人のことを気に掛けていた。
「え…と、あの…どうかな? ここには慣れたかな…?」
そう話しかけてきたのは、以前、家庭内でのジェンダーハラスメントを理由にもえぎ園に保護された守縫久人だった。
現在、もえぎ園では最年長の彼は、職員の手伝いをして園児達の面倒をみる役目をしている。なので、新しく入ってきた二人のことも気に掛けていたのだ。
「あ…うん。大丈夫だから……」
灯安良はそれだけ応えて『構わないで』というオーラでも放とうとしてるかのように顔を背けてしまう。
一方、阿礼の方は、
「ありがとう」
と素直に礼を言った。
男性でありながらやや中性的な雰囲気を持つ阿礼は、トランスジェンダーである久人とは割と相性が良かったようだ。
なお、男性でありながら女性としての感性を持つ久人だったが、もえぎ園では『男性らしく』『女性らしく』ということは一切言われないので、『自分らしく』いることができており、そのため、精神的には非常に安定していた。
最初の内は他の園児や職員とは別にしていたトイレも、今では同じトイレを使えている。また、トイレ掃除も今でも進んで行っている。すっかりもえぎ園が彼の<家>となり、園児達や職員が<家族>となり、幸せに暮らすことができていたのだ。
だからこそ他人を気遣う余裕も出てくる。
しかし、阿礼はともかく灯安良の方はそれどころではなかった。
と言うのも、妊娠によるホルモンバランスの変化も影響していて、精神的に不安定になっているのである。
彼女の妊娠については、理解できる園児達には既に伝えられている。そういうことについてもえぎ園では基本的にタブー扱いしない。生きている人間がなることについては基本的にオープンにするのが方針だった。しかし同時に、本人の状況により必要と判断されれば例外的な対応ももちろんする。
ただ灯安良の妊娠についてはそもそも隠しておけるようなことではないので、下手に誤魔化してトラブルになってもというのもあり、隠し立てはしなかった。
むしろ、妊娠中の女性との接し方を学ぶ機会とさえ捉えている。妊娠に限らず、久人を通じてLGBTについても学ぶし、虐待を受けたりした児童との接し方も学ぶ。こうやって生きた学習を受けるのだ。
『自分と他人は違う』
『人はそれぞれいろいろな事情を抱えて生きている』
それを知り、違いや他人の抱えている事情を受け止めることで自身の抱える問題も受け止めてもらえるということを、園児達は学ぶのだ。
しかしそれは普通のことなので、これ自体を案じる職員はもえぎ園にはいない。
むしろそこに保護されている<園児>が二人のことを気に掛けていた。
「え…と、あの…どうかな? ここには慣れたかな…?」
そう話しかけてきたのは、以前、家庭内でのジェンダーハラスメントを理由にもえぎ園に保護された守縫久人だった。
現在、もえぎ園では最年長の彼は、職員の手伝いをして園児達の面倒をみる役目をしている。なので、新しく入ってきた二人のことも気に掛けていたのだ。
「あ…うん。大丈夫だから……」
灯安良はそれだけ応えて『構わないで』というオーラでも放とうとしてるかのように顔を背けてしまう。
一方、阿礼の方は、
「ありがとう」
と素直に礼を言った。
男性でありながらやや中性的な雰囲気を持つ阿礼は、トランスジェンダーである久人とは割と相性が良かったようだ。
なお、男性でありながら女性としての感性を持つ久人だったが、もえぎ園では『男性らしく』『女性らしく』ということは一切言われないので、『自分らしく』いることができており、そのため、精神的には非常に安定していた。
最初の内は他の園児や職員とは別にしていたトイレも、今では同じトイレを使えている。また、トイレ掃除も今でも進んで行っている。すっかりもえぎ園が彼の<家>となり、園児達や職員が<家族>となり、幸せに暮らすことができていたのだ。
だからこそ他人を気遣う余裕も出てくる。
しかし、阿礼はともかく灯安良の方はそれどころではなかった。
と言うのも、妊娠によるホルモンバランスの変化も影響していて、精神的に不安定になっているのである。
彼女の妊娠については、理解できる園児達には既に伝えられている。そういうことについてもえぎ園では基本的にタブー扱いしない。生きている人間がなることについては基本的にオープンにするのが方針だった。しかし同時に、本人の状況により必要と判断されれば例外的な対応ももちろんする。
ただ灯安良の妊娠についてはそもそも隠しておけるようなことではないので、下手に誤魔化してトラブルになってもというのもあり、隠し立てはしなかった。
むしろ、妊娠中の女性との接し方を学ぶ機会とさえ捉えている。妊娠に限らず、久人を通じてLGBTについても学ぶし、虐待を受けたりした児童との接し方も学ぶ。こうやって生きた学習を受けるのだ。
『自分と他人は違う』
『人はそれぞれいろいろな事情を抱えて生きている』
それを知り、違いや他人の抱えている事情を受け止めることで自身の抱える問題も受け止めてもらえるということを、園児達は学ぶのだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】君のために生きる時間
野村にれ
恋愛
カペルル王国、アズライン伯爵家。
そこにはミルシュアとリズファンという仲のいい姉妹がいた。
しかし、伯爵家は酷いものだった。
愛人を邸で平気で囲う父親、こんな人と結婚するのではなかったと泣く母親。
姉妹は互いこそが唯一の理解者で、戦友だった。
姉が笑えば妹が笑い、妹が悲しめば姉も悲しむ。まるで同じように生きて来たのだ。
しかし、あの忌まわしい日が訪れてしまった。
全てだった存在を失って、一体彼女に何が残ったというのだろうか。
日本史
春秋花壇
現代文学
日本史を学ぶメリット
日本史を学ぶことは、私たちに様々なメリットをもたらします。以下、そのメリットをいくつか紹介します。
1. 現代社会への理解を深める
日本史は、現在の日本の政治、経済、文化、社会の基盤となった出来事や人物を学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、現代社会がどのように形成されてきたのかを理解することができます。
2. 思考力・判断力を養う
日本史は、過去の出来事について様々な資料に基づいて考察する学問です。日本史を学ぶことで、資料を読み解く力、多様な視点から物事を考える力、論理的に思考する力、自分の考えをまとめる力などを養うことができます。
3. 人間性を深める
日本史は、過去の偉人たちの功績や失敗、人々の暮らし、文化などを学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、人間としての生き方や価値観について考え、人間性を深めることができます。
4. 国際社会への理解を深める
日本史は、日本と他の国との関係についても学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、国際社会における日本の役割や責任について理解することができます。
5. 教養を身につける
日本史は、日本の伝統文化や歴史的な建造物などに関する知識も学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、教養を身につけることができます。
日本史を学ぶことは、単に過去を知るだけでなく、未来を生き抜くための力となります。
日本史の学び方
日本史を学ぶ方法は、教科書を読んだり、歴史小説を読んだり、歴史映画を見たり、博物館や史跡を訪れたりなど、様々です。自分に合った方法で、楽しみながら日本史を学んでいきましょう。
まとめ
日本史を学ぶことは、私たちに様々なメリットをもたらします。日本史を学んで、自分の視野を広げ、未来を生き抜くための力をつけましょう。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
鳳月眠人の声劇シナリオ台本
鳳月 眠人
現代文学
胸を打つあたたかな話から、ハイファンタジー、ホラーギャグ、センシティブまで。
あなたとリスナーのひとときに、心刺さるものがありますように。
基本的に短編~中編 台本。SS短編集としてもお楽しみいただけます。縦書き表示推奨です。
【ご利用にあたって】
OK:
・声劇、演劇、朗読会での上演(投げ銭配信、商用利用含む)。
・YouTubeなどへのアップロード時に、軽微なアドリブを含むセリフの文字起こし。
・上演許可取りや報告は不要。感想コメント等で教えて下されば喜びます。
・挿絵の表紙をダウンロードしてフライヤーや配信背景への使用可。ただし、書かれてある文字を消す・見えなくする加工は✕
禁止:
・転載、ストーリー改変、自作発言、改変しての自作発言、小説実況、無断転載、誹謗中傷。
太陽と星のバンデイラ
桜のはなびら
現代文学
〜メウコラソン〜
心のままに。
新駅の開業が計画されているベッドタウンでのできごと。
新駅の開業予定地周辺には開発の手が入り始め、にわかに騒がしくなる一方、旧駅周辺の商店街は取り残されたような状態で少しずつ衰退していた。
商店街のパン屋の娘である弧峰慈杏(こみねじあん)は、店を畳むという父に代わり、店を継ぐ決意をしていた。それは、やりがいを感じていた広告代理店の仕事を、尊敬していた上司を、かわいがっていたチームメンバーを捨てる選択でもある。
葛藤の中、相談に乗ってくれていた恋人との会話から、父がお店を継続する状況を作り出す案が生まれた。
かつて商店街が振興のために立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』と商店街主催のお祭りを使って、父の翻意を促すことができないか。
慈杏と恋人、仕事のメンバーに父自身を加え、計画を進めていく。
慈杏たちの計画に立ちはだかるのは、都市開発に携わる二人の男だった。二人はこの街に憎しみにも似た感情を持っていた。
二人は新駅周辺の開発を進める傍ら、商店街エリアの衰退を促進させるべく、裏社会とも通じ治安を悪化させる施策を進めていた。
※表紙はaiで作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる