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斉藤敬三

自戒

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酔っぱらって園に怒鳴り込んできた元職員をモップの柄で打ちのめそうとした敬三の頬を、梢の平手が捉えていた。

しかしそれに驚いたのは、ひっぱたかれた敬三ではなく、梢の方だったのだと思われる。

ハッという顔をして、

「ご、ごめんなさい…! 私……!!」

と、青ざめてしまったのだった。



結局、今回の件で、元職員は、この時所持していたバッグに包丁まで忍ばせていたことから、通報で駆け付けた警察官に、建造物侵入、銃刀法違反の現行犯で逮捕された。

その後、暴行及び威力業務妨害の容疑でも再逮捕され、検察へと送致された。本人は『酒を飲んでいて覚えていない』と容疑を否認したが、防犯カメラにも、梢を突き飛ばす様子や、敬三に向かって飛び掛かろうとする様子が鮮明に捉えられており、言い逃れることなどできなかったが。

さらにこの元職員は、妻や子供に対するDVでも刑事告訴されたという。かねてから日常的に妻や自分の子にも暴力をふるい、それを『躾だ!』と言い逃れてきたものの、ついに耐えきれなくなった妻が子供を連れて家を出てしまい、そのことが、今回の事件のきっかけになったようであった。

組合員でもあった当該元職員の起こした事件も原因となったのか、元職員らの<もえぎ園>に対する抗議行動は急速に勢いを失い、彼らが立ち上げた児童保護施設の職員の為の労働組合そのものは存続したものの、<もえぎ園>を相手取った労働争議についてはうやむやになる形で終息した。

そして、これらの件とは別に、敬三をひっぱたいてしまった梢は、体罰を固く禁じた園の規則により、一週間の自宅謹慎と、減俸十分の一(三ヶ月)の懲戒処分を受けることとなった。その規則を導入することになった張本人である梢自身が体罰を行ってしまったのだからと、彼女自身が厳しい処分を求めたのである。

だが、これに納得いかなかったのが、ひっぱたかれた当人である敬三だった。

「はあ? あん時、無茶したのは俺だろ? ひっぱたかれるくらい当然じゃんか! なんで先生が…!?」

と、園に隣接した梢の自宅にまで押しかけて抗議したが、そんな彼に向かって梢は静かに語ったのだった。

「敬三くん。先生は、自分で決めたルールを破ってしまったの。だから罰を受ける。これは当然のことなんだよ。どんな理由があったとしても、ルールを破ればそれなりの罰があるのが本来の姿なの。

だけど大人はこれまで、自分達が決めたルールを自分達で破って、しかもあれこれ言い訳を並べてそれをなかったことにしてきた。敬三くんは、そんな大人が許せなかったんでしょ?

だから先生は、ルールを破った自分が許せないんだ」

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