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斉藤敬三

ズルく醜い部分

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『子供は殴らないと分からない』などと言ってる人間に、この職員と同じようなことをしている者はいないだろうか? 『子供は殴らないと分からない』と言って殴りつけて従わせようとしつつ、自分はルールを、決まり事を、法律を蔑ろにしていないだろうか? 『信号を守れ!』と頭ごなしに命じながら、自分は信号を無視したりしていないだろうか。

子供に対してはマナーを解きながら、自分は他人の悪口を並べ、陰口をたたいたりしていないだろうか? 『悪口はよくない』と、大人が子供に当たり前のように説く道徳を、大人が蔑ろにしていないだろうか?

自分はそうやって、ルールを、決まり事を、法律を蔑ろにしておきながら、子供に対してはガミガミと煩く言ってないだろうか?

自分はそんな大人に偉そうにされて、素直に従えるのだろうか?

己の振る舞いを省みることができない大人の姿を見た子供は、それを見倣ったりしないだろうか?

この時の敬三は、まさに、大人のそういうズルく醜い部分をしっかりと学び取ってしまったのである。

だから、『ルールも決まり事も法律も知ったことではない』と考えたのだ。自分をコインロッカーの中に捨てた、憎い<大人>に報復する為ならば。

『親に捨てられた人間が皆、そんな風に考える訳じゃない。それは甘えてるだけだ!』

と言う人間もいるだろう。しかし、大人がルールを、決め事を、法律を守らないのも『甘え』ではないのか? 自分にとって少しばかり都合が悪いからと、このくらいならいいだろうと、酒を飲んで自動車や自転車を運転したり、信号を無視したり、違法駐車をしたり、ゴミのポイ捨てをしたり、エスカレーターを歩いたり走ったり、夜間に無灯火で自転車に乗ったり、通行区分を無視したり、傘さし運転をしたり、ながら運転をしたり、歩きスマホをしたり、優先座席を占領したり、ネットで誹謗中傷や罵詈雑言をコメントしたりと、ルールやマナーを無視したりしてないだろうか?

それは、すべからく『甘え』の筈である。

大人がそのように甘えているのに、子供には『甘えるな』とは、果たしてどの口が言うのだろう?

『自分は厳しく育てられたから甘えたりしない』

と言う者もいるかもしれないが、果たしてそれは本当なのだろうか? 間違ったことをした場合にそれを指摘されて、逆ギレしないだろうか? 間違っているのだからそれを指摘されて逆ギレするのは紛れもなく『甘え』の筈である。

敬三は、子供ながらそれに気付いてしまっただけなのだ。大人こそが『甘えている』という事実に。

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