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獣と変わらない

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「……」

祠の前で倒れている人間を見た瞬間、僕はそれが誰なのか分かってしまった。

ううん。本当はもう<匂い>で分かってた。ただそれが確認できたっていうだけだ。

白い服を着た、十二歳くらいの娘。

いくらか体も大きくなって髪も頭の上でお団子にしていないけど、僕には分かる。

「ヒャク……」

そう、<ヒャク>だ。ヒャクリ亭で出逢った、ヒアカとクレイの娘。そのヒャクが、今、生贄としてそこにいる。

ここに来てから飲まず食わず眠らずで、糞も小便も垂れ流しながら祈り続けて、人事不省に至った。

あんなに仲の良さそうだった家族の娘が、どうして生贄なんかに……?

大抵は、身寄りのない者が生贄として選ばれてきたのに。

もちろん、そうじゃないのもいたけど。

くそ……っ!

見てしまったら、もう、知らん振りはできなかった。

……って、違うな。知らん振りができなかったから、こうして確かめに来てしまったんだ。

僕は、気を失ったヒャクを抱き上げて、洞を出た。糞や小便に塗れているけど、人間はそれを気にするらしいけど、僕には気にならない。

そんなことよりも、唇も肌も乾き切って粉が噴き、髪はまるで糸くずのように痛んでいることの方が気になってしまう。

けれどまずは、山肌から水が湧き出しているはずの場所へといった。

「うん……?」

そこは、生贄達が最後に身を清める場所として使われてたはずだった。それなのに、水がない。湧き出てない。山肌も乾き切り、ただただ石くれが転がっているだけだ。

いつもの水脈に水が流れてないんだ。

仕方ないから僕は、さらに奥深いところの水脈から水を呼び寄せた。

途端に、ざあざあと水が―――――とは、いかなかった。出てはきたけど、勢いがない。ようやく体が洗える程度の頼りないものだった。

『<干ばつ>……か……』

人間達が数百年ぶりに生贄を寄越した理由がそれで察せられた。

なるほど空気も乾き切っている。水気をまるで感じない。地にいるもの全てを焼き殺そうとでもするかのように日輪が照りつける。空は落ちていきそうなくらいにただただ青い。

そんなくらいじゃ僕には何の害にもならなくても、人間には厳しいのか。

それを思いながら、僕はヒャクの着物を脱がせ、山肌から噴き出す水に曝した。そうして頭から洗って、糞も小便も綺麗に流す。

「……っ!?」

するとヒャクが目を覚まして、噴き出す水を大きな口を開けて貪った。それはもう、ただの獣のような姿だった。

どんなに口では高潔なことを語ろうが、人間というのは乾けばこうやって獣と変わらない。そんなものだ。

しかも、

「げっは! ごはっ! げははっっ!!」

焦って水を求めてむせたヒャクが、何度も体を撥ねさせては咳き込んだのだった。

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