上 下
487 / 571
第三幕

出版社は、『金のため』に作品を送り出してる。そう、決して、『読者のため』なんかじゃない。本当に『読者のため』なら、ごく少数であっても

しおりを挟む
僕と出逢う前のアオにとっては、さくらが彼女の支えだった。それについて、彼女はこんな風に言ってる。

『世の中には鳴かず飛ばずで終わった作品ももちろんあって、でもたぶん、それを『面白い』と思ってくれた人はいると思う。少数だっただけでさ。

残念なことに、出版社にとってはそれが少数だと『価値がない』んだよね。商売だから。慈善事業じゃないから。

だから出版社は、『金のため』に作品を送り出してる。そう、決して、『読者のため』なんかじゃない。

本当に『読者のため』なら、ごく少数であっても『面白い』と感じてくれる読者がいるならそれを無視するわけないよね?

なのに実際には、そういう<少数の読者>は切り捨てられるんだ。お金にならないから。

過去にも、私が好きだった作品がいくつもそういう形で切り捨てられてきたんだ。私がアンケートで『面白いです!』って送っても、その意見は無視されてさ。

それのどこが『読者の意見に耳を傾けてる』って? ぜんっぜん傾けてないじゃん。

その現実がある以上、私は、『読者のために』なんて口にする編集者は信用しない。『金のために』やってる事実を綺麗な言葉で誤魔化して、いかにも、『自分は読者を思い遣ってます』的なアピールをする編集者は大嫌いだ。

だけどさくらは、対外的には『読者のため』とは口にしてても、私の前では、「こんなの売り物になりません! 商品になりません! 売れるものを書いてください!」とはっきり言ってくれるから、いい。

もちろんさくらがずっと私の担当だったわけじゃなくて、何度か担当が交代したりもしたけど、正直、酷かったな。編集者の能力的な意味じゃなくて、私のモチベーションとして。

だから彼女は、その度に私の担当に戻れるように上司に願い出てくれたって。でもその所為で彼女は、上の方から睨まれて、出世とかには縁がなくなっちゃったんだよ。結果、最近はもう、彼女が休んでる時に代理で他の編集が来るくらいで、担当そのものから外れることはない。

私がプロ作家としてやっていけてるのは、彼女のおかげ。ホントに感謝してる。

そういう意味じゃ、今の私は、彼女のためにやってるっていうのもあるかな。

私の所為で出世街道から外れてしまった彼女の恩に報いるためにね。

な~んて言いながらでも、彼女が来ると、丁々発止、やり合っちゃったりするけどさ。

でもなあ、そういう形でお互いに本音をぶつけられるからやれてるっていうのもあると思う。

彼女も、「売り物になるものを書いてください!」ってはっきり言ってくれるしさ。

そして私も、「知るか! 私は私が面白いと思うものを書くだけだ! それが商品になるかどうかはお前らが勝手に選べ!!」って言い返せる。

そして次の作品を生み出せる。

そこに、『読者のため』なんていう綺麗事はないんだよね』

アオは、笑顔でそう話す。それが、アオにとってさくらがどういう存在かを物語ってる。

エンターテイメントに疎い僕には、さくらの代わりは勤まらない。

吸血鬼である僕も、決して<万能>じゃないんだ。

『アオには僕だけがいればいい』

というわけじゃないのは現実なんだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

こずえと梢

気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。 いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。 『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。 ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。 幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。 ※レディース・・・女性の暴走族 ※この物語はフィクションです。

【完結】龍神の生贄

高瀬船
キャラ文芸
何の能力も持たない湖里 緋色(こさと ひいろ)は、まるで存在しない者、里の恥だと言われ過ごして来た。 里に住む者は皆、不思議な力「霊力」を持って生まれる。 緋色は里で唯一霊力を持たない人間。 「名無し」と呼ばれ蔑まれ、嘲りを受ける毎日だった。 だが、ある日帝都から一人の男性が里にやって来る。 その男性はある目的があってやって来たようで…… 虐げられる事に慣れてしまった緋色は、里にやって来た男性と出会い少しずつ笑顔を取り戻して行く。 【本編完結致しました。今後は番外編を更新予定です】

めがさめたら、田舎にいた。

ミックスサンド
キャラ文芸
貧乏コンテストとかあったら優勝できそうなくらいの生活をおくる 女子高校生・「倉田さち」が倒れ、めざめると田舎に住まう少女、「本条 結子」になっていた。 女の子が田舎で狐やら河童やらを相手に食堂でご飯を振る舞う話です。  ❉難しい文体ではないので  暇な時にサラッと読んで頂ければ幸 いです。女主人公です。

契約違反です、閻魔様!

おのまとぺ
キャラ文芸
祖母の死を受けて、旧家の掃除をしていた小春は仏壇の後ろに小さな扉を見つける。なんとそれは冥界へ繋がる入り口で、扉を潜った小春は冥界の王である「閻魔様」から嫁入りに来たと勘違いされてしまい…… ◇人間の娘が閻魔様と契約結婚させられる話 ◇タグは増えたりします

処理中です...