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第三幕

あたかも自分が被害者であるかのように

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『誹謗中傷はれっきとした不法行為』

この指摘にすら、言い訳を並べて正当化しようとする人達が理性的だとは、僕は思わない。自制心を持ってるとは思わない。

自分自身を省みることができる人だとは思わない。

紫音しおんの母親も、この時の警察の対応について、

『怪我もしてないのに救急車を呼んで医療費を払わせた。病院と癒着でもしてんのか!?』

とネットに発信してみたり、紫音しおんのことも、

『子供が何度注意しても勝手に出かけるのをやめない。何度バレても浮気やめないダンナそっくり。しかも育児は女の仕事だって押し付ける。時代錯誤も甚だしい』

と、あたかも自分が一方的な被害者であるかのように発信して、<いいね>や<そう思う>といったものを集めて悦に入ってたみたいだね。

これも、紫音しおんのために食事を作るのが面倒だと感じて近所のコンビニに買い物に出た母親が歩きながらスマホを操作していた時の画面に表示されていたものだ。

一方、紫音しおんの方は、ますますうちに入り浸るようになった。

もう、自分の家には帰りたくないと思ってるのが伝わってくる。でも、だからこそかもしれないけど、癇癪を起こすことはなくなった。

それは、彼が成長したからというよりも、椿つばきへの依存度がさらに高くなったからかもしれない。もし彼女に見捨てられたらそれこそ自分の居場所がなくなるという危機感からだったのかもしれない。

実はこれも一種の<抑圧>なんだろうね。椿が彼を抑圧してるわけじゃないけど、彼自身が自分を抑圧してるんだ。

『<試し行動>という形で椿の気持ちを確かめたいのにそれさえ抑え込んでいる』

という。

でも椿は、そういうことも含めて彼を受け止めた。彼は、ムキになったかのようにあのボードゲームで遊ぶことを何度もせがんだ。

すると、紫音しおんが億万長者になって椿を圧倒するということもあった。その結果に、込み上げる喜びが隠し切れないのか、彼はなんとも言えない表情になった。

もちろん逆に、土壇場で椿つばきが大逆転するということもある。

そんな時は彼は明らかに苛々した様子だったけど、椿は言う。

「大丈夫だよ。これはルーレットでどの数が出るかだけで決まるから。紫音しおんくんが悪いんじゃないよ」

確かに、そのボードゲームは、それぞれのマスで選択が行えるようにして戦略性を増したバージョンのものもあるけど、二人がやっているものは、あくまで止まったマスにイベントが書かれているだけのバージョンだった。だから、単純に、ルーレットの運次第であって、プレイヤーの能力は結果に反映されない。

何度もそれを繰り返すことで、次第に紫音しおんも椿の言葉が実感できていったみたいだね。徐々に悪い結果が出ても苛々しなくなっていった。

その間も、彼を受け止めることで椿に掛かるストレスは、僕とアオが椿に甘えてもらうことで解消する。

さらに、僕とアオに掛かるストレスは、僕とアオがお互いに解消し合う。

誰かにしわ寄せを押し付けない。それが僕達の在り方なんだ。

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