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第三幕

椿のために彼を守らなきゃ

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気遣って慰めようとしたことを拒絶された椿つばきは、さすがに戸惑った様子だった。自分や悠里ユーリ安和アンナは、こんな態度を取ることはまずないから。

そういうところからも、紫音しおんが自分の家でどんな想いをしているのかを、椿は悟ったみたいだ。

自分達が取ることのない態度を取らずにいられない紫音しおんの精神状態を察してしまう。

だからこの日はもう、彼が拗ねるに任せて、自分はただ静かに彼の傍でじっと見守るだけだった。

声も掛けない、慰めようともしない。ただ、傍にいるだけ。

余計なこともしないけれど、見捨てもしない。

僕とアオが、椿達がまだ一歳や二歳の頃に、拗ねた時にしたことだ。感情を拗らせている時に、本人が自身の感情を持て余している時に、慌てて余計な入力をしてもますます処理が間に合わなくなる感じかな。

また、そういう時にこちらが感情的になると、さらに余裕がなくなってしまう。

そんな状態で叱責したって、された方は処理し切れなくて当然だよね。

すると、一時間くらいそうした後で、

「帰る……」

紫音しおんは立ち上がって、椿に視線を向けることもしないまま、部屋を出て行った。

でも、そうやっていつもより早く帰ったことで、彼はさらに傷付けられることになってしまった。

母親が、父親じゃない男性とリビングで睦み合っているのを見てしまったんだ。

瞬間、

「何で帰ってきてんだよ!! もっと遊んでろよ!!」

母親が感情を爆発させたのが、自宅の書斎にいた僕にさえ聞こえてしまってた。もっとも、それ以前から、男性との行為で嬌声を上げていたのが聞こえていたんだけどね。

好ましくないところを子供に見られて気まずくなり焦るのは分からなくもないけど、だからってそれは大人として恥ずかしくない態度なの?

だから紫音しおんは、家を飛び出してしまった。母親が気まずさから感情を制御できなくなったのと同じく、彼も、キャパシティを超えてしまったんだ。

これはさすがに、場合によっては命にも関わりかねない事態。

椿のことは悠里ユーリ安和アンナに任せ、僕は紫音しおんを追った。

できればうちに来てほしかったけど、さすがに椿に対してあんな態度を見せてしまったからか、来なかった。

しばらくあてもなく走って、走り疲れたら歩いて、紫音しおんは自分の家から遠ざかっていった。

『もう帰れない』

と思ってるのが分かる。

僕は、気配を消して彼の後をつける。

彼が思い直して家に帰ってくれればいいけど、もしこのまま、<家出>や<突発的な行動>に出てしまわないか、僕は見守らなくちゃいけない。

そこまでじゃなくても、今の彼はそれこそ視野狭窄に陥ってる状態だ。事故などに遭う危険性も高い。

彼がもし、事故などで命を落とすようなことがあったら、椿が悲しむ。

僕は、椿のために彼を守らなきゃいけないんだ。

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