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第三幕

そのやり方が正しくないというのなら

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『恐怖で子供をコントロールする』のを、椿つばきは正しいことだと思ってない。

僕はそんな彼女を誇りに思う。

そして同時に、

『恐怖で子供をコントロールするのが正しくないのなら、どうすればいい?』

ということも、ちゃんと考えてくれてる。

『恐怖で子供をコントロールするのは正しくない』

だけで終わらないんだ。そこで終わってしまったら、意味がない。

『そのやり方が正しくないというのなら、じゃあどうすればいいんだ?』

という疑問に答えられなければ、十分じゃない。

でも、椿は、その答えをしっかりと導き出そうと努力してくれてる。

今日も遊びに来た紫音しおんを迎え入れて、

「今日は何して遊ぶ?」

いつもと変わらずに問い掛ける。

すると紫音しおんは、

「……」

黙ったまま、例のボードゲームを指差した。

上手くいかなくて癇癪を起したものをわざわざまた選ぶんだ。その意図を推測することはできるけど、たぶん、当の紫音しおん自身、自分が何故それを選んだのかを論理的には説明できないだろうな。

だから、推測するのはあまり意味がない。あくまで、椿や僕が対応策を選定する際の想定として程度のものでしかない。

人間が抱える事情は、一人一人違う。性格も違うし、感じ方も違うし、当人が置かれている状況も違う。だから、

<すべての事例に当てはまる方法>

というものは存在しない。

結局は、一人一人の事情に則した対応を、その場その場で見付けていくしかないんだ。

「これでいいの? じゃあやろ」

椿はまず、

『彼の言うことを否定しない』

ことから始めた。

それは、僕とアオが、子供達、悠里ユーリ安和アンナ椿つばきだけじゃなくて、さくらとエンディミオンの子の、あきら恵莉花えりか秋生あきおに対しても普段からしてることだ。

『否定から入らない』

という形でね。

まず子供の言うことに耳を傾けて、とにかくやってみる。その上で、上手くいきそうになかったら<次善の策>を提案する。

しかもその提案も、ただ押し付けるんじゃなくて、子供と一緒にそれでいいかどうかを考えるんだ。

面倒臭いと思う? 『そこまでやってられるか』と思う? だけどこれは、仕事なんかでもすることじゃないの? 

相手の提案には耳も貸さずに突っぱねてこちらの提案を相手と議論することもなく一方的に押し付けて、それでいつでも上手くいくと思ってるの? 相手の信頼を得られると思ってるの?

それが上手くいくのは、自分の提案を呑まない相手は切り捨ててしまえる場合なんじゃないの?

それを、『親を選べない』子供に当てはめるのは、フェアとは言えないと思うんだけどな。

面倒臭いから、そこまでやってられないから、という態度は<甘え>じゃないの?

五年生の椿でさえやろうとしていることを大人がやらないというのは、どうなんだろうね。

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