401 / 571
第三幕
そのやり方が正しくないというのなら
しおりを挟む
『恐怖で子供をコントロールする』のを、椿は正しいことだと思ってない。
僕はそんな彼女を誇りに思う。
そして同時に、
『恐怖で子供をコントロールするのが正しくないのなら、どうすればいい?』
ということも、ちゃんと考えてくれてる。
『恐怖で子供をコントロールするのは正しくない』
だけで終わらないんだ。そこで終わってしまったら、意味がない。
『そのやり方が正しくないというのなら、じゃあどうすればいいんだ?』
という疑問に答えられなければ、十分じゃない。
でも、椿は、その答えをしっかりと導き出そうと努力してくれてる。
今日も遊びに来た紫音を迎え入れて、
「今日は何して遊ぶ?」
いつもと変わらずに問い掛ける。
すると紫音は、
「……」
黙ったまま、例のボードゲームを指差した。
上手くいかなくて癇癪を起したものをわざわざまた選ぶんだ。その意図を推測することはできるけど、たぶん、当の紫音自身、自分が何故それを選んだのかを論理的には説明できないだろうな。
だから、推測するのはあまり意味がない。あくまで、椿や僕が対応策を選定する際の想定として程度のものでしかない。
人間が抱える事情は、一人一人違う。性格も違うし、感じ方も違うし、当人が置かれている状況も違う。だから、
<すべての事例に当てはまる方法>
というものは存在しない。
結局は、一人一人の事情に則した対応を、その場その場で見付けていくしかないんだ。
「これでいいの? じゃあやろ」
椿はまず、
『彼の言うことを否定しない』
ことから始めた。
それは、僕とアオが、子供達、悠里や安和や椿だけじゃなくて、さくらとエンディミオンの子の、洸や恵莉花や秋生に対しても普段からしてることだ。
『否定から入らない』
という形でね。
まず子供の言うことに耳を傾けて、とにかくやってみる。その上で、上手くいきそうになかったら<次善の策>を提案する。
しかもその提案も、ただ押し付けるんじゃなくて、子供と一緒にそれでいいかどうかを考えるんだ。
面倒臭いと思う? 『そこまでやってられるか』と思う? だけどこれは、仕事なんかでもすることじゃないの?
相手の提案には耳も貸さずに突っぱねてこちらの提案を相手と議論することもなく一方的に押し付けて、それでいつでも上手くいくと思ってるの? 相手の信頼を得られると思ってるの?
それが上手くいくのは、自分の提案を呑まない相手は切り捨ててしまえる場合なんじゃないの?
それを、『親を選べない』子供に当てはめるのは、フェアとは言えないと思うんだけどな。
面倒臭いから、そこまでやってられないから、という態度は<甘え>じゃないの?
五年生の椿でさえやろうとしていることを大人がやらないというのは、どうなんだろうね。
僕はそんな彼女を誇りに思う。
そして同時に、
『恐怖で子供をコントロールするのが正しくないのなら、どうすればいい?』
ということも、ちゃんと考えてくれてる。
『恐怖で子供をコントロールするのは正しくない』
だけで終わらないんだ。そこで終わってしまったら、意味がない。
『そのやり方が正しくないというのなら、じゃあどうすればいいんだ?』
という疑問に答えられなければ、十分じゃない。
でも、椿は、その答えをしっかりと導き出そうと努力してくれてる。
今日も遊びに来た紫音を迎え入れて、
「今日は何して遊ぶ?」
いつもと変わらずに問い掛ける。
すると紫音は、
「……」
黙ったまま、例のボードゲームを指差した。
上手くいかなくて癇癪を起したものをわざわざまた選ぶんだ。その意図を推測することはできるけど、たぶん、当の紫音自身、自分が何故それを選んだのかを論理的には説明できないだろうな。
だから、推測するのはあまり意味がない。あくまで、椿や僕が対応策を選定する際の想定として程度のものでしかない。
人間が抱える事情は、一人一人違う。性格も違うし、感じ方も違うし、当人が置かれている状況も違う。だから、
<すべての事例に当てはまる方法>
というものは存在しない。
結局は、一人一人の事情に則した対応を、その場その場で見付けていくしかないんだ。
「これでいいの? じゃあやろ」
椿はまず、
『彼の言うことを否定しない』
ことから始めた。
それは、僕とアオが、子供達、悠里や安和や椿だけじゃなくて、さくらとエンディミオンの子の、洸や恵莉花や秋生に対しても普段からしてることだ。
『否定から入らない』
という形でね。
まず子供の言うことに耳を傾けて、とにかくやってみる。その上で、上手くいきそうになかったら<次善の策>を提案する。
しかもその提案も、ただ押し付けるんじゃなくて、子供と一緒にそれでいいかどうかを考えるんだ。
面倒臭いと思う? 『そこまでやってられるか』と思う? だけどこれは、仕事なんかでもすることじゃないの?
相手の提案には耳も貸さずに突っぱねてこちらの提案を相手と議論することもなく一方的に押し付けて、それでいつでも上手くいくと思ってるの? 相手の信頼を得られると思ってるの?
それが上手くいくのは、自分の提案を呑まない相手は切り捨ててしまえる場合なんじゃないの?
それを、『親を選べない』子供に当てはめるのは、フェアとは言えないと思うんだけどな。
面倒臭いから、そこまでやってられないから、という態度は<甘え>じゃないの?
五年生の椿でさえやろうとしていることを大人がやらないというのは、どうなんだろうね。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
こずえと梢
気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。
いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。
『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。
ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。
幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。
※レディース・・・女性の暴走族
※この物語はフィクションです。
最後の封じ師と人間嫌いの少女
飛鳥
キャラ文芸
封じ師の「常葉(ときわ)」は、大妖怪を体内に封じる役目を先代から引き継ぎ、後継者を探す旅をしていた。その途中で妖怪の婿を探している少女「保見(ほみ)」の存在を知りに会いに行く。強大な霊力を持った保見は隔離され孤独だった。保見は自分を化物扱いした人間達に復讐しようと考えていたが、常葉はそれを止めようとする。
常葉は保見を自分の後継者にしようと思うが、保見の本当の願いは「普通の人間として暮らしたい」ということを知り、後継者とすることを諦めて、普通の人間らしく暮らせるように送り出そうとする。しかし常葉の体内に封じられているはずの大妖怪が力を増して、常葉の意識のない時に常葉の身体を乗っ取るようになる。
危機を感じて、常葉は兄弟子の柳に保見を託し、一人体内の大妖怪と格闘する。
柳は保見を一流の妖怪退治屋に育て、近いうちに復活するであろう大妖怪を滅ぼせと保見に言う。
大妖怪は常葉の身体を乗っ取り保見に「共に人間をくるしめよう」と迫る。
保見は、人間として人間らしく暮らすべきか、妖怪退治屋として妖怪と戦うべきか、大妖怪と共に人間に復讐すべきか、迷い、決断を迫られる。
保見が出した答えは・・・・・・。
契約違反です、閻魔様!
おのまとぺ
キャラ文芸
祖母の死を受けて、旧家の掃除をしていた小春は仏壇の後ろに小さな扉を見つける。なんとそれは冥界へ繋がる入り口で、扉を潜った小春は冥界の王である「閻魔様」から嫁入りに来たと勘違いされてしまい……
◇人間の娘が閻魔様と契約結婚させられる話
◇タグは増えたりします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる