上 下
386 / 571
第三幕

子供達まで明らかに

しおりを挟む
『親しい相手以外の他人とはなるべく関わりたくない』

最近、人間によく見られる傾向だという気がする。

ただ僕は、それを必ずしも悪いことだとは思わない。親しくもない相手に無闇に馴れ馴れしくするのは、むしろトラブルの素だと思う。

椿つばきもそれが分かってるから、挨拶が返ってこなくても気にしない。自分が挨拶をした方がいいと思ってるからするだけで。

すると、

「おはよう、つーちゃん♡」

それが自分に掛けられた挨拶だと察して、椿は振り返って、

「おはよう♡」

と挨拶を返した。

よくうちに遊びに来る、<椿の友達>の一人だった。

その子の姿を見た途端、椿の表情も和らぐ。

確かに、見ず知らずの相手にでも積極的に話し掛けられる方が自分の世界を広げるには有利かもしれないし、それができる人はそうすればいいと思う。でも、世の中にはそれができる人ばかりじゃない。

それができる人が優れてて、できない人は劣ってるという考え方は危険だよ。

あくまで<適性の違い>でしかないから。

加えて、<魅了チャーム>の能力を持つ僕達吸血鬼からすれば、人間のコミュニケーション能力の優劣なんて、まったく考慮する必要さえないし。

椿は、馴れ馴れしくされるのを苦痛に感じる相手を気遣うことができる。

その一方で、穏やかにコミュニケーションを取ってくる相手のことを闇雲に拒むこともない。そのあたりの分別をわきまえてる彼女を、僕は父親として誇りに思う。

ただ、この時、一緒に待ってる子供達の中に、酷く顔色の悪い子がいた。

その子の母親も一緒にいたけれど、ずっとスマホをいじっているだけで、自分の子供にはまったく注意を払っていなかった。

すると、椿が、

「大丈夫……?」

って青い顔をしていた子に声を掛けた。瞬間、声を掛けられた子が、突然、

「うえええーっっ!」

と嘔吐する。

「うわっ!?」

「きゃーっ!!」

「吐いた!?」

さすがにこれには、他の子達も声を上げてしまった。こうなるとその場は軽いパニックだ。

なのに、吐いた子の母親は、

「ちょっ! あんた、何したの!?」

自分の子供を気遣うんじゃなくて、椿の肩をいきなり掴んで怒声を浴びせる。椿が何かしたように思ったんだろう。

この態度に、僕の中にも強い感情がよぎる。

けれど、異変を感じて駆けつけた<地域見守り隊>とプリントされたベストを着た年配の女性が、

「あなた! そんなことよりこの子の心配しなさい!!」

椿の肩を掴んだ女性を叱責した。それと同時に、携帯電話を手にして、

「救急をお願いします。場所は……!」

手際よく救急要請を。

にも拘らず、吐いた子の母親は、

「ちょっと! 勝手なことしないでくれます!? 今日はこれから約束があるんです! 病院とか行ってる時間なんかないんです!!」

だって。

その言い草に、他の母親達だけじゃなく、子供達まで明らかに軽蔑の眼差しを向けたんだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

迷子のあやかし案内人 〜京都先斗町の猫神様〜

紫音@キャラ文芸大賞参加中!
キャラ文芸
【キャラ文芸大賞に参加中です。投票よろしくお願いします!】 やさしい神様とおいしいごはん。ほっこりご当地ファンタジー。 *あらすじ*  人には見えない『あやかし』の姿が見える女子高生・桜はある日、道端で泣いているあやかしの子どもを見つける。 「”ねこがみさま”のところへ行きたいんだ……」  どうやら迷子らしい。桜は道案内を引き受けたものの、”猫神様”の居場所はわからない。  迷いに迷った末に彼女たちが辿り着いたのは、京都先斗町の奥にある不思議なお店(?)だった。  そこにいたのは、美しい青年の姿をした猫の神様。  彼は現世(うつしよ)に迷い込んだあやかしを幽世(かくりよ)へ送り帰す案内人である。

後宮見習いパン職人は、新風を起こす〜九十九(つくも)たちと作る未来のパンを〜

櫛田こころ
キャラ文芸
人間であれば、誰もが憑く『九十九(つくも)』が存在していない街の少女・黄恋花(こう れんか)。いつも哀れな扱いをされている彼女は、九十九がいない代わりに『先読み』という特殊な能力を持っていた。夢を通じて、先の未来の……何故か饅頭に似た『麺麭(パン)』を作っている光景を見る。そして起きたら、見様見真似で作れる特技もあった。 両親を病などで失い、同じように九十九のいない祖母と仲良く麺麭を食べる日々が続いてきたが。隻眼の武官が来訪してきたことで、祖母が人間ではないことを見抜かれた。 『お前は恋花の九十九ではないか?』 見抜かれた九十九が本性を現し、恋花に真実を告げたことで……恋花の生活ががらりと変わることとなった。

本日、訳あり軍人の彼と結婚します~ド貧乏な軍人伯爵さまと結婚したら、何故か甘く愛されています~

扇 レンナ
キャラ文芸
政略結婚でド貧乏な伯爵家、桐ケ谷《きりがや》家の当主である律哉《りつや》の元に嫁ぐことになった真白《ましろ》は大きな事業を展開している商家の四女。片方はお金を得るため。もう片方は華族という地位を得るため。ありきたりな政略結婚。だから、真白は律哉の邪魔にならない程度に存在していようと思った。どうせ愛されないのだから――と思っていたのに。どうしてか、律哉が真白を見る目には、徐々に甘さがこもっていく。 (雇う余裕はないので)使用人はゼロ。(時間がないので)邸宅は埃まみれ。 そんな場所で始まる新婚生活。苦労人の伯爵さま(軍人)と不遇な娘の政略結婚から始まるとろける和風ラブ。 ▼掲載先→エブリスタ、アルファポリス ※エブリスタさんにて先行公開しております。ある程度ストックはあります。

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にエントリー中です。 応援をよろしくお願いいたします。

異世界を服従して征く俺の物語!!

ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。 高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。 様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。 なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

処理中です...