上 下
362 / 571
第三幕

回想録 その2

しおりを挟む
当時のソ連はドイツなどの<枢軸国>とだけ戦争していたわけじゃなかった。公式な記録としては残っていないものも多いみたいだけど、ソ連国内でも、体制に異を唱える人達はいて、そういう人達との<戦争>も、同時に行われてた。

その所為で、だいたいどこに行っても落ち着いて暮らすことはできなかったかな。

人間達もピリピリしていて、余裕がなかったみたいだし。

それでも母は、人間達を憎んだりしなかった。

「私達と彼ら人間とは、別の生き物なの。だから完全に理解し合うことはできない。

ただ、その上で、一部分だけなら、折り合うこともできる。手を取り合うことだってできる。そうやってこの世界の全ての命は生きている。互いに折り合いをつけて生きているの。

ミハエル。あなたにはその事実を知っていてほしい」

母は、何度も僕にそう言って聞かせてくれた。

当時の僕には母の話は難しくてよく理解できないものだったのも事実だけど、僕自身が経験を積み重ねることで、その時の母の言葉が理解できるようになっていった。

一方、父も、母と同じことを考えてはいたけど、人間に対するスタンスはあくまで<科学的興味>が優先されていて、それは、まさしく昆虫学者が昆虫を見ている時のそれに近いものだったと思う。

自分と人間とを、<対等>とは見做してなかったんだ。

だけど、父のその考え方も、今なら理解できる気がするんだ。

だって、吸血鬼と人間は、<別の種>だからね。

<同じ地球上に生きる種>

という意味では吸血鬼と人間は<仲間>ではあっても、それぞれの<命の形>は大きく違う。

かたや限りなく不死に近く、人間が使う武器のほとんどが通用しない吸血鬼と、

かたや精々百年行くかどうかという短い命に加え非力だからこそ一人では生きていけないがゆえに集団で寄り添い合って力を出し合って生きる人間とでは、対等であろうとすることにそもそも無理があるんだ。

生物として圧倒的な強さを持つ吸血鬼の方が人間に合わせないと、上手くはいかない。

人間が吸血鬼に合わせることができない以上は、

<強者の責任>

として、人間に合わせるしかないんだよ。

そしてそれが、吸血鬼自身のためでもある。

この世界の人間を排除して吸血鬼だけの世界を作った方が平和で平穏な世界ができるかもしれない。強いからこそ無駄に争い合う必要のない吸血鬼は、人間のように<数>を必要としないから、爆発的に増えることもない。

だけど、そうじゃないんだ。

『この地球には吸血鬼だけがいればいい』

という考えは、ただの傲慢なんだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

こずえと梢

気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。 いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。 『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。 ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。 幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。 ※レディース・・・女性の暴走族 ※この物語はフィクションです。

I do all!

天音 ユウ
キャラ文芸
 設立一年の芸能事務所、ジュエリーガーデンプロモーション。ここには十人の新人アイドルが所属している。  しかし、まだ芸歴一年にも満たない彼女たちはヒヨっ子、夢の舞台は程遠い。  そこで社長が提案したのは、年の瀬に開催される大型ユニットオーディション「Brand New Duo」への全員出場だった。  条件は二人一組のユニットを「自分たちで」結成すること。夢に向かって走るため、オーディションでトップを取れ!

雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。 煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。 そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。 彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。 そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。 しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。 自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。

腐れヤクザの育成論〜私が育てました〜

古亜
キャラ文芸
たまたま出会ったヤクザをモデルにBL漫画を描いたら、本人に読まれた。 「これ描いたの、お前か?」 呼び出された先でそう問いただされ、怒られるか、あるいは消される……そう思ったのに、事態は斜め上に転がっていった。 腐(オタ)文化に疎いヤクザの組長が、立派に腐っていく話。 内容は完全に思い付き。なんでも許せる方向け。 なお作者は雑食です。誤字脱字、その他誤りがあればこっそり教えていただけると嬉しいです。 全20話くらいの予定です。毎日(1-2日おき)を目標に投稿しますが、ストックが切れたらすみません…… 相変わらずヤクザさんものですが、シリアスなシリアルが最後にあるくらいなのでクスッとほっこり?いただければなと思います。 「ほっこり」枠でほっこり・じんわり大賞にエントリーしており、結果はたくさんの作品の中20位でした!応援ありがとうございました!

処理中です...